第21話「あっここ催眠ゼミでやったところだ!」
本日2話投稿!
2話目です。
「ごめんなさいね、慌ただしくて。ヒロくんがお友達を連れてきたのなんて初めてだからびっくりしちゃって。うふふ~」
お母さんがお茶とお菓子を持ってきて、僕の部屋に居座っている。
なんかやたらと上機嫌なのだが、僕はなんだかやたら恥ずかしい気持ちでいっぱいになった。なんだこの感情は……。
「お母さん、勉強の邪魔だからあっち行っててよ……!」
「あら~、なんだかヒロくんに邪険にされるのも新鮮ねぇ。思春期の息子を持った母親の醍醐味感じちゃう」
「……なんかすごいイライラする!?」
ドアの隅からはくらげちゃんがじーっとこちらを見ている。……いや、なんか視線が僕からズレてるな。これささささんを見てるのか?
ささささんが笑顔で軽く手を振ると、びくっと体を震わせながらシャーと威嚇して逃げて行った。
オシャレ好き同士気が合うかと思ったが、相性悪いんだろうか。
「ねえねえ、ヒロくんって学校だとどんな感じなの? やっぱりぼーっとしてる?」
「あ、いえ、ずっとタブレットで本を読んでますよ」
「そうなんだ。クラスでひとりになってない? 学校楽しそう?」
お母さんはニコニコと嬉しそうに笑いながら、にゃる君から情報を聞き出そうとしてくる。いや、学校でどう過ごしてるかなんて直接僕に聞けばいいのに何故にゃる君を通そうとするんだ。
「俺と佐々木がよく一緒にいるし、今はありすサンも別のクラスから遊びに来るからひとりじゃないですよ。こいつが楽しいかどうかはわからないですけど、まあ返事はしてくるから機嫌悪くはないんじゃないですか」
「まあ~。そうなの、いつもありがとうね。何考えてるのかよくわからない子だけど、仲良くしてあげてね」
そう言ってお母さんはぺこりと頭を下げた。
いえそんな、とにゃる君とささささんも慌てて頭を下げる。
……うう、なんだこのいたたまれない空気。
「お母さん、ホント勉強会の邪魔だから……」
「はいはい。お茶のおかわり欲しくなったら言ってね」
お母さんはごゆっくり~と言い置いて下に戻っていく。
うう……僕の部屋で勉強会を開いたのは失敗だったかもしれない。
「おかーさんにヒロくんって呼ばれてるんだ?」
「うあ゛ーーーー!!」
ささささんの言葉に、僕は頭を抱えた。
なんだ、この気恥ずかしさは……!
「俺、ハカセにここまでダメージを与えた人間を初めて見たわ。やっぱ親って最強なんだな」
「ヒロくんの方がハカセくんより可愛いね。アタシもヒロくんって呼んでいい?」
「いいから、勉強を、しよう! なっ!?」
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カリカリとシャープペンの音が響く中、3人でテキストに向かっている。
……のだが。
「それでさ、アキちゃんのいいところを教えてあげたのね。そしたらそういうのは恥ずかしいからやめてって怒られちゃったの。親切でやったのにおかしいと思わない?」
「それは恥ずかしがってるんじゃねえかなあ。というか、正月にお屠蘇飲んでウケケケって笑いながら初詣ではしゃぎ回ったって、それいいところか? 普通に掘り返されたくない思い出だろ」
「だってすごい盛り上がったよ。絡まれてウザそうにしてた子もいたけど」
「そりゃ見てる方は楽しいだろうけどさあ」
「あ、ところで昨日のロードショウ見た? サメもレイヤーもすごかったよねー」
「あー、『レイヤーシャーク』だっけ? 金髪コスプレイヤーの大群とサメが戦うとか、レイナー監督の頭の中どうなってんだろうな……」
ささささんの雑談がやまない。
ちゃんと手は動かしているのだが、とにかくおしゃべりが好きでしきりに何かしゃべっている。それににゃる君が律儀に応えるものだから、ささささんとにゃる君のフリートークコーナーみたいになってしまっている。
これ集中できてないよなあ。
ミスターMが足引っ張るって言ってたのはこれか。
「うーん、これどうしてこうなるんだ?」
おっ、にゃる君が何やら解けない問題があるようだ。
数学か。ここは僕が教えてあげよう。
「-4<x<6だよ」
「……いや、答えじゃなくてだな。何でそうなるのかがわからんのだが」
……?
なんか不思議なことを言うなあ。
「何でそうなるのかと言われても、問題文を見た時点で答えなんてわかりきってるじゃないか。あとはそこに至るまでの式を書いてやればいいだけだろ?」
「なるほど。参考にならんことがわかったわ」
「そこは連立方程式でしょ。下の方程式を整理して、yを上の式に代入して……」
「あー……うん……?」
横からささささんが入ってきて、にゃる君に教えてくれている。
……やっぱり僕って教える才能ないのかもしれない。
しかし方程式なんて足し算引き算と同程度の話なのに、懇切丁寧に基礎から教えるなんてささささんはすごく親切だなあ。
ここまで基礎から教えてくれるのなら、僕もこの機にわからないところを聞いてしまおうか。
「そういえば僕もわからないところがあるんだけどさ」
「んー、何だ? ハカセにわからない問題が俺らにわかるとも思えんが」
「国語の問題で『このときこの人物は何を考えていたのか答えよ』ってあるじゃない。あれってみんなどうやって登場人物の心を読んでるの?」
「……」
「……」
にゃる君とささささんは顔を見合わせ、それから僕を宇宙人でも見るような目で見つめてきた。
「いや……別に心読んでるわけじゃねえから。つーか架空の人物の心なんて読めるわけねーだろ」
「あれは自分がその場面にいたらどう思うかを答えなさいって意味だよ」
…………!?
僕の瞳から鱗がパージした。
「そ、そうか……あれは僕があの場所にいたらどう考えるかのシミュレートをしろってことだったのか……!」
「シミュレートって……。いや、まあ大体そういうことだが」
「だけど『このとき何故この人物はこう言ったのかを答えよ』ってのもあるじゃないか。僕なら絶対そんなこと言わないようなことを、登場人物が勝手に言うんだ。あれはどうすればいいんだ?」
「…………」
「…………」
にゃる君とささささんは目を丸くして僕を見ている。
「いや……。別にお前本人を話の中に登場させるわけじゃねえぞ」
「頭の中でその人になりきって、何でそう言ったのかを推理するんだよ」
僕は雷に撃たれたようなショックを受け、ペンを取り落とした。
「……!? そ、そうだったのか……。あれは他人の思考パターンを自分の頭の中でエミュレートしろということだったんだな!!」
「え、そこまで複雑な話として理解するのか……?」
「まあ言ってることは間違いじゃないけどね」
僕はそもそも問題の解き方自体を理解していなかったらしい。
なんてことだ、これでは方程式のルールを理解しないまま数学の問題を眺めているのと同じじゃないか。みんながこんなに高度なことをしていたなんて……。
その後2人の指導を受けて、僕はようやく国語の問題文の解き方を理解したのだった。
感謝の言葉も見つからない。
キミたちと出会って以来、これほど催眠をかけてよかったと思ったことはないぞ……!
「ありがとう。今日はとても実りある日だった」
「お、おう……。お前よく今まで生きてこれたな……」
「ハカセくんは作中の人物どころか出題者の意図すら読めてなかったんだね!」
今日は助走日です、催眠といちゃラブは明日をお楽しみに。
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