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06.ヴェルーシア学園(2)

ヴェルーシア学園では、毎年10月になると学園祭が開催される。

その規模は国営級で、全国中継されるテレビの視聴率は50%を超える。その注目度と影響力は計り知れず、学園祭で結果を残した生徒はテレビ出演やCMに抜擢され、優勝した生徒には高校生に与えられる額とは考えられないほどの賞金が授与される。


だが、もちろんそれは簡単なことではない。

ヴェルーシア学園には毎日戦闘を学ぶエリートが各学年100名ずつ、計300名が在籍している。その全員が学園祭に出られるわけではなく、その中でもよりエリートな生徒が国会で選出され、ようやく出場することができるのだ。

そのため、3年間学園祭に出られない生徒の方が9割を超える。



それだけヴェルーシア学園祭の出番に選出されることは栄誉である。例年では3年生から約10人、2年生から約5人が選出されるのだが、シンプルに実力不足であるという理由で 1年生が選出されることは過去に1度としてなかった。

その異例の選出者がこの中にいる、それだけで教室内がザワつくのも、マモル教諭の声が震えるのも納得であった。



「その選出された生徒は………」



学園祭への出場は、ヴェルーシア学園に入学する生徒全員が目標としている。そのチャンスが1年生の時点で目の前まで来ている。

マモル教諭の言葉の続きを生徒全員が待った。


ただ1人、ルキアだけは興味を示さなかった。

元々ルキアは学園祭に出たいと思っていなかった。ヴェルーシア学園に入学したのは、あの身勝手な父親の影響であって、戦闘力に秀でたわけではなかったからだ。

だが、今は違う。異世界で過ごしているうちに自然に戦闘力が磨かれ、さらにスキルを所有している。自分の力がどれだけ通用するのか、それを試すことができる絶好の機会の学園祭には少しだけ興味が出てきた。


ーーでも、俺な訳ないよなぁ。

これまでヴェルーシア学園で非凡な成績しか残してこなかった。異世界に行っていたことを知る人はいないし、スキルのことも然りだ。

そんな自分が選ばれるわけがないため、ルキアはマモル教諭が言っていることに大して興味が出てこなかったのだ。

誰が選出されようと、別に自分には関係のない話だ。



「ルキア、お前だ」



ルキアはマモル教諭の言葉を聞いていなかった。

だが、【スキル:感覚上昇】が一斉に自分に向く教室内の視線を感じ取った。



「え、何?」



「学園祭に選出されたんだよ」



「俺が?」



「そうだ、お前がだ」



…………



「えぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!!!」



ルキアを含む生徒25人の叫び声が教室内に響いた。


「何でルキア?」

「すげー」

「ルキアで大丈夫か?」


所々で色んな発言がされている。

ルキア本人にとっても理解できなかった。



「何で俺なんですか?」



ルキアは立ち上がった。



「国会で決まったことだ。また詳細はこちらから話す。朝礼は以上」



マモル教諭は教壇においていた資料をトントンとまとめ、教室を出た。


ルキアはどうして自分が選出されたのか、必死に頭の中を整理した。

選出者を決める流れは、ヴェルーシア学園の関係者が優秀な生徒をピックアップし、その生徒が学園祭に出場するに値するかどうか総理大臣を含む国会で討議されて決まる。各生徒の身体能力や実績が細かく書かれた資料が判断材料になるらしいが、大抵ヴェルーシア学園の関係者がピックアップした生徒で決まるらしい。


まずヴェルーシア学園の関係者が自分を推薦するわけがない。となると、国会。国会で何者かが自分を推薦したと考えるのが自然だ。ではなぜ推薦した?


ーーもしかして………。


もしかしたら自分の戦闘力が上昇していることと、スキルの存在を知っている政治家がいるのかもしれない。だとしたら、ずっと疑問に思っていた、〈異世界とは何か、自分が異世界に行くことになったのはなぜか〉の答えにも繋がる。さらには誰かが自分を意図的に異世界へ転送した、なんて仮説も成り立つかもしれない。


ヴェルーシア学園祭。

マモル教諭が言うように、どうやら本当に他校の学園祭とは訳が違うようだ。

ルキアは1ヶ月後に控える学園祭が楽しみに感じ、笑みがこぼれた。



「………キア!ルキア!」



どうやら何度もモモナに話しかけられていたみたいだ。



「大丈夫?そんなにぼーっとして」



「あ、うん、大丈夫。まさか学園祭に選ばれると思ってなかったから」



「私もビックリした。でもどうしてルキアなんだろうね」



モモナは考えるように両腕を胸の前で組んだ。



「わかんない。まだ1ヶ月あるし、ゆっくり考えるよ」



モモナが「そうだね」と言うと、教室に1限目を担当する教諭が入ってきた。教室内の生徒が座学の授業に備えて静かになっていく。

ルキアはふと感じた視線の方を見ると、教室の端の席に座っているゼノアと目が合った。その表情は、まさに怒りを押し殺しているようだった。



おそらく、あの人も学園祭に選出されているだろう。

ルキアは1日中、学園祭のことで頭がいっぱいだった。




 〜総理官邸〜


総理官邸の入り口を開けると、隅々まで清掃が行き届いた大広間が出迎えた。驚くほど天井が高く、スーツの上からでも分かるほど引き締まった体格の男が1人真っ直ぐ進むと、足音が遅れて反響した。


コンコン


男は突き当たりの扉を2度ノックすると、室内から「入れ」と重い声が返ってきた。

男は丁寧に、かつ力強く扉を開けた。



「失礼します」



男は頭を下げた。

部屋の奥の椅子座っている老人は、背を向けて窓の外を眺めている。

男は部屋の入り口の前で頭を下げたまま続けた。



「計画どおり、バナトール・ルキアがヴェルーシア学園祭に選出されました」



「そうか。だがまだ彼は発展途中だ。引き続き、監視を続けてくれ」



「承知致しました。では、失礼します」



男は部屋を出ると、総理官邸を出た。



「シンア、待っていろ」

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