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05.ヴェルーシア学園(1)

ヴェルーシア学園。別の名を戦闘力向上学校。

知識、運動、人格、歌唱、技術、芸術など………、秀でた才能を持つ人はたくさんいるが、その中でもこの時代において最も必要とされる才能、それは戦闘力である。


きっかけは2100年、地球が2大勢力に2分されたことに遡る。


アメリカ勢と日本勢。


かつてはアメリカが最強の軍事力を誇っていたが、それは核がまだ兵器と呼ばれていた頃の話である。

核兵器の無力化について研究を密かに進めていた日本はとうとう成功し、アメリカは軍事力を失うことになった。


とはいえ日本は地球を支配することは考えてはいなかった。核兵器の恐怖から解放され、世界が平和になることを望んでいただけであった。

だが、アメリカ側はそうはいかない。日本が持つ核兵器無力化を成功させるほどの技術力を恐れ攻撃を仕掛けてきたが、日本には爆弾や銃撃を迎撃する技術が備わっていたため、武力による攻撃を受けることは一切なく、勝負はつかなかった。


しばらく平和な日々が続いたある日、事件は起きた。

特殊な訓練を受けたアメリカ人の傭兵1人が総理官邸に忍び込み、その1人に警備隊30人が殺されたのだ。


武力には武力で対抗できるが、対人戦闘に対抗できる術がないことを危険視した日本政府は、国を守るために戦闘力を備えた人材を育成する必要があると考え、ヴェルーシア学園が設立された。


ヴェルーシア学園の実態は、3年間戦闘学の基礎と実技を学ばせ、日本防衛隊の戦闘員になる人材を育成することである。




ルキアはヴェルーシア学園の門の前に来ると、その懐かしい門構えに身震いした。

ここまでのスケールを誇る建造物は、異世界はさておき現実世界には他にない。



「改めて見ると大きいなぁ」



巨大な校門をくぐると、校舎まで100メートルほどある。

ルキアが歩いていると、四方八方から視線を感じた。【スキル:感覚上昇】のせいで余計に多くの感情が周囲から伝わってくるが、スキルレベル15くらいでは話している内容までは分からない。



「やけに注目を浴びている気がする。常備スキルだから解除できないし、何だかなぁ」



ノーマルスキルにも種類がある。

【感覚上昇】、【器用】、【反応速度上昇】などは常備スキルと呼ばれ、自分で発動しなくても常に身に付いているスキルのことだ。

他にも【威嚇】は攻撃スキル、【火球】は魔法スキルなど、細かく分類別されて呼ばれていた。

スペシャルスキルについては、いまだによく分からないがーー。


校舎に入ると、ルキアに寄せられる注目はなくなるどころか大きくなった。1年校舎全員の視線が自分に向いている気がする。

教室に入って席に座るとクラスの人気者のトオリが駆け寄ってきた。



「ルキア!!!ゼノアと戦ったって、本当か!?!?」



なるほど。やけに注目されていた理由はこれか。



「うん」



「他のクラスのやつが見かけたらしいんだけど、勝ったんだって!?!?」



「いや、勝ったっていうか、ゼノアが諦めたって感じ」



「すげー!!!でもあのプライドの高いゼノアが諦めるところなんて想像つかないな!何したの!?」



トオリはキラキラした目で聞いた。


異世界に行く前、ルキアはゼノア達にいじめられていた。だが、ゼノア達以外のクラスメイトはみんな優しかった。イジメを止めてくれることはなかったが、もしゼノアに歯向かったら次は自分に矛先が向く。もし逆の立場だったら止めることはできなかっただろうから、そのことついてはどうも思っていない。


これからはゼノアにいじめられることもないし、異世界のようにモンスターに襲われることもない。ルキアはそれだけで良かった。



「ちょっと、睨んでやった」



ルキアはスキルを使ったなんて言えるわけがなく、ドヤ顔で誤魔化すとトオリはゲラゲラと笑った。



「ハッハッハ!睨んだって、なんだそれ!!」



何がそんなに面白いのか分からないが、トオリは流した涙を拭いた。



「でも気をつけろよ。ゼノアのことだからさ、このままじゃ終わらないんじゃないか?」



「大丈夫だよ。その時はまた睨んでやるから」



「そうだな!」



トオリが再びゲラゲラと笑いながら立ち去るのを見送っていると、右肩を小突かれた。右隣の席にモモナが座っている。



「お、モモナ、おはよう」



「おはよう」



モモナはルキアの方を見ることなく、机の上に置いた右手で頬杖をついたまま答えた。

何か言いたそうにしているモモナを黙って見ていると、ゆっくりと口を開いた。



「昨日は、ありがとう」



小さい声。モモナは照れていた。



「うん、全然大丈夫」



ウィーン



教室前方の自動扉が開く音がした。

ゼノアが教室に入ると気まずさを表すように突然静かになったが、昨日の噂が広まっているのはゼノアの耳にも届いているようで、舌を打っていた。

ルキアはその様子を澄ました顔で眺めていると、ゼノアがチラッとルキアを見た。先に目を逸らしたのは、ゼノアだった。



「はーい、席につけー。朝礼始めるぞー」



ゼノアの後に続いて、担任であるマモル教諭が入ってきた。

目力が強く、体格が良い。自身もヴェルーシア学園の卒業生で、卒業後はヴェルーシア学園から引き抜かれる形で教師になったらしい。

クラスメイト25人が続々と自分の席につくと、マモル教諭は教壇の前に立った。



「今日は、来月開催される学園祭についてだ。1年生の君たちも知っての通り、うちの学園祭は他校の学園祭とは訳が違う。それぞれが少しでも成長できるように、ヴェルーシア学園生としての自覚をしっかり持って取り組むように」



マモル教諭の力強い言葉を聞き、教室内の生徒は朝礼が終えることを悟った。

だが、マモル教諭の緊張感は緩まるどころか強まる一方で、朝礼はそのまま続いた。



「そしてなんと、このクラスから学園祭の出番に選出された生徒がいる」



教室内が一瞬にしてザワついた。



「静かに。先生だって驚いている」



ルキアはマモル教諭の声が震えているような気がした。



「だ、誰ですか!?」



トオリはたまらず声を上げた。

そのトオリの質問の答えを生徒は静かに待った。ある者は期待に胸を膨らませ、ある者は選出者が誰か予想するように周りをキョロキョロと見回した。


〝学園祭の1年生出場者〟


この事実はそれほど過去にない異例のことであった。

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