01.帰還
「懐かしいなぁ!」
数時間前、長い年月を過ごした異世界からようやく現実世界に戻ってきたルキアは、【東京ユニバースタワー】の50階から街を見下ろしていた。
50階は地上から約1000メートルの高さで、十分に街を見渡すことができる。これでも【東京ユニバースタワー】の100分の1ほどの高さで、最上階は宇宙につながっているらしい。
「異世界とは大違いだ」
ルキアは感動していた。
たくさんの高層ビル、空を飛び回る自動車、浮いた円盤に乗って移動している人たち。
すべてが懐かしい。
異世界にはこんなに高い建物も、空を飛び回る自動車も、人を乗せて運ぶ機械もなかった。
その代わり【スキル】と呼ばれる魔法のような能力があったが……。
「あれ?」
ルキアが街を見渡していると、違和感を覚えた。
ーー何かが、おかしい。
いや、おかしい点がなさすぎる。
異世界へ転送されたあの日から、何1つ変わっていないようだ。
「確か、5年くらいは向こうにいたよな」
ルキアは日時を確認するために空間をタップすると、タップした空間にスクリーンが現れた。
「S-Phoneはまだ使えるみたいだ」
〝S-Phone〟とは、空間を意識的にタップすることで、空間にスクリーンを表示することができる機械の名称である。本体は硬貨ほどの大きさで、ポケットなどに入れておけばいつでも使用することができる。表示されたスクリーンを触ることで操作し、電話やメールなどができる、22世紀に生まれた大発明だ。
スクリーンには2150年9月1日と表示されている。
「あの日と、同じ日だ」
忘れるはずがない。異世界へと転送された日。
思い返すと、おかしなことだらけだ。
異世界から戻ってくると、自分の部屋のベットの上だった。リビングに行くと母さんがキッチンに立っていた。
「かあさん!」
駆け寄って思いっきりハグした。
久しぶりに母さんの姿を見て、涙が止まらなかった。
異世界に転送された当初、しばらく母さんを探し回ったが結局見つからなかった。
ずっと会いたかった母さんの体は、暖かかった。
「あら、どうしたの?」
母さんは驚いていた。息子との久しぶりの再会とは思えないほど、ポカンとした表情で。
そのあと恥ずかしくなって家を飛び出し、ふと目に止まった【東京ユニバースタワー】に来たのだが……
ーー夢、だったのか?
異世界に転送されたことが夢だとしたら、母さんの反応も納得できる。
だが、どれだけ考えても異世界で過ごした長い年月の記憶が鮮明にある。
ルキアが首を傾げると、目の前のガラスに映る自分と目があった。
「変わってない!」
異世界で過ごすうちに身長も伸びたし、筋肉もついた。顔付きも変わったはずだ。
だがどれだけガラスに映る自分の姿を見ても、その面影はまったくない。
転送される前の、あの日の僕だ。
「ふぅー」
ルキアは1つ深呼吸をした。
どうであれ、今自分はずっと戻ることを望んでいた現実世界にいる。
「ま、いっか!」
ルキアは振り返り、下りのエレベーターに乗った。