第6話 『救世主』と『終焉』
「なぁ、一つ聞いてもいいか?」
「ん? なに?」
落ち着いたユリアが、ノアールの声に微笑む。
その表情に少し心を乱されながらも、ノアールは問いを続ける。
「ユリアはどうして、この街に来たんだ?」
それは、ノアールの中でずっと引っかかっていたことだった。
なぜ彼女は、この街に行こうと思ったのか。
「……ノアには、話しておかないといけないよね」
神妙な面持ちで、瞳を閉じるユリア。
やがて意を決したのか、彼女は再び口を開いた。
「信じてもらえないかも、しれないんだけどね」
「わかった。信じるよ」
「うん。せめて話を聞いてからにしてほしいんだけど」
ユリアは苦笑しながら、
「――『救世主』を連れてきた者を、次代の王とする。そうお父様がおっしゃったの」
「…………んん?」
ノアールの理解が追いつかなかった。
「『救世主』ってのはなんだ?」
「……お父様の話によると、迫りくる『終焉』から、この世界を救済する存在、らしいけど。よくわからないんだよね」
ユリアは困ったような顔でそう呟いた。
わからないのか。
なるほど。
「わたしはとにかく、『救世主』を探さないと、って思って、それで……」
「――第二王子に先手を打たれた。そういうことか」
だいたいの流れは把握できた。
第二王子がユリアを狙ったのは、彼女が『救世の剣聖』の『祝福』を得たことも大きいのだろう。
今代の王族で『剣聖』の『祝福』を得た者は、ユリア以外にいないはず。
まさしく目の上のたんこぶというやつだ。
「……何の手がかりもないのか?」
「『救世主』はすごい『祝福』を持ってると思う。でも、もう目覚めてるのかどうかもわからないし、『救世主』自身にその自覚があるかどうかもわからない」
「なんだそりゃ」
そんな存在を探せなんて、無茶もいいところだ。
適当に言っているのではないのか。
「……わたしは、ノアが『救世主』なんじゃないかなと思ったんだけど」
「俺が? ないない」
ノアールは苦笑しながら、首を横に振る。
たしかにやろうとしていることは『救世主』のそれに近いのかもしれないが、自分がそこまで大層な存在とはどうしても思えない。
「ま、あんまり気にしすぎても仕方ないか。ひとまず、俺たちが力をつけることが優先だ」
「そうだね。わたしもそう思う。不意打ちでも、ちゃんとノアを護れるようにならないと』
ノアールの提案に、ユリアも真剣な顔で頷いた。
結局その日は、それで休むことになったのだった。