表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/34

第1話 勘当



 『祝福の儀』、当日。

 ノアールは、緊張した面持ちで、神殿へと足を運んでいた。


 神殿には、彼と同じように緊張した様子の少年少女たちが列を作っている。

 彼らは全員、今年で十七歳になる者たちだ。


 彼らを見守るように、大人たちも近くに集まっている。

 新しい門出を祝うため、親や兄弟などが一緒に参列することも珍しくない。

 ノアールの場合も例に漏れず、父と義母、弟が参列に来ていた。


 この王国では十七歳を迎えるとランドール王立学院を卒業し、成人扱いとなる。

 そして、十七歳を迎えると同時に、一人ひとりが『祝福』と呼ばれる固有の才能に目覚める。

 『祝福の儀』は、それを知ることができる唯一の機会となる。


「――ユリア・クリスタル・ランドール」

「はい」


 神官に名前を呼ばれた少女は、緊張した面持ちで祭壇を登った。

 女性にしては大きめな身長に、凛々しい金色の瞳が特徴的な少女だ。

 天使の羽根のように広がる水色の髪は、ランドール王家特有のものである。


 彼女はユリア。このランドール王国の第三王女だ。

 ロータス家は王家と代々関係を築いてきたこともあり、ノアール自身、彼女とは幼馴染と言ってもいいくらいには親しくしていた。


 神官は重々しい様子で頷くと、その口を開いた。


「ユリア・クリスタル・ランドールの『祝福』は、『救世の剣聖』だ」


「おお!」

「あのユリア様が『剣聖』とは!」

「しかもただの『剣聖』ではないようですぞ!」

「実にめでたいですな!」


 家臣たちが祝福の言葉を口にする。

 ランドール王家の子孫たちは、代々剣をもって王国の守護を象徴する役務を果たしてきた。

 『剣聖』は、そんな王国の子孫たちが持つ『祝福』の中でも特に有名で、その恩恵は折り紙付きだ。

 さらに固有の名称がつくようなものは、その力が強くなる傾向がある。


「おめでとう、ユリア。がんばったわね」

「ありがとうございます、お母様!」


 母からの祝いの言葉に、ユリアは花が咲いたような笑顔を浮かべる。

 彼女は母や家臣たちと一緒に、神殿を退出していった。


 すれ違いざま、ユリアがノアールにウインクする。

 ノアールはそれに気づくと、軽く手を振って返した。

 頑張れと、そういうことだろう。


「――ノアール・ロータス」

「はい」


 神官にノアールの名が呼ばれ、彼は祭壇に上がった。

 今までの人生が、走馬灯のように駆け巡る。


 ロータス家は、代々続く魔術師の名門だ。

 各世代から少なくとも一人は、王宮に使える宮廷魔術師を輩出してきた。

 ノアール自身も、小さなころから英才教育を施され、一日も欠かさず訓練を行ってきた。


 残念ながらノアールは剣術や魔術の才能には恵まれなかったが、勉学にはしっかりと打ち込んできた。

 魔術は使えないが、魔道具を使うことは問題ないので、魔力があることは確実だ。

 魔術理論は理解しているし、他の知識も他人に劣っているとは思っていない。

 一番いいのは『魔術適性』系の『祝福』を与えられることだが、数ある『祝福』の中からそれを引き当てることができるかどうか。


 そして、運命の瞬間がやってくる。

 珍しく、神官が少し困惑したような表情を浮かべている。

 それから気を取り直したように、口を開いた。


「ノアール・ロータスの『祝福』は、……『書き換え』だ」

「……『書き換え』?」


 ノアールは首を傾げた。

 そんな名前の『祝福』は聞いたことがない。


「それは魔術師としての適性に関係のある『祝福』か?」

「いいえ。詳細はわかりませんが、魔術に関係する『祝福』ではありません」


 ノアールの父、グロール・ロータスの質問に、神官はそう答えた。

 その答えを聞いた父、母、弟は揃ってため息をついた。


「残念だ。もしまともな『祝福』を得ていれば、一族の末席には加えたままでいさせてやろうと思っていたが……」

「……それは、どういうことでしょうか」


 ノアールの声は震えていた。

 父のその一言で、その先の未来が見えてしまったからだ。


「あなたには理解が難しかったかしら? あなたのような出来損ないは、ロータス家には必要ないということよ」


 ノアールの義母、ベスタ・ロータスは、喜色を隠し切れない様子で声を上げる。

 彼女はノアールの実母ではない。

 ノアールの実母は、彼が幼いころ病気でこの世から去った。

 父親が再婚してからは、ノアールの家での居場所はないに等しかった。


「安心してください。お兄様がいなくなっても、僕がロータス家を継ぎますから」


 ノアールの弟、アルマ・ロータスは、母親そっくりの表情でそう言った。

 幼いころはノアールともよく遊んだりしたものだが、彼はいつの間にかロータス家の跡継ぎという目標を強く意識するようになった。

 魔術師としての適性は折り紙付きで、実際にノアールの代わりにアルマを次期頭首に据えようという動きはあった。

 今回のこれは、その地位を盤石なものとするための、最後の一手といったところか。




「まともに魔術を使えない者など、一族の面汚しにしかならん。ノアール。今日をもってお前をロータス家から勘当する」




 ……その言葉を聞いたときのノアールの心情を、どう言葉にしたらよいだろうか。

 失意。

 諦念。

 やるせなさ。

 寂しさ。

 あらゆる負の感情が浮かび、心にこびりついて離れない。


「……お世話に、なりました」


 それが、ノアールがようやく絞りだした言葉だった。


 こうして、ノアールはロータス家を勘当になった。


お読みいただきありがとうございます!

面白かったと思っていただけましたら、広告の下の【☆☆☆☆☆】より評価していただけますと、作者のモチベーションが上がります。

ブックマークもぜひお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ