99話 死の罠が待つ
転移が始まりAランクに位置する私達はいつもの仄暗いエリアへと連れて行かれる。
先日訪れた唐突の休日。
あの時は喜んだものだが、まさかそれから一週間近く続くとは予想もしていなかった。
「おかげで肩が軽いわ」
わざとらしく言って肩を回していると、同行しているガランと、そしてスルトが同意する。
「それにしても私達三人とはね。他を担当しているAランクも連れて来た方が効率良さそうなもんだけど」
「そう言うな。こっちの方が俺達にとっては都合が良いだろ。一人当たりの実績の割合が増すんだからな」
一理有る。
私としてもボチボチここを出ておきたいところではある。第零監獄で求めていた情報はもう無い。
世界樹の情報は結局の所真偽が掴めないものだった。
世界で語られている話では、そこには美しい緑が広がりまるで楽園のようだと伝えられている。
それを言うに事を欠いて地獄とは……。
「にしてもスルト、随分落ち着いているわね。今日が初めてのAランクのエリアなのに」
「偉大な先輩が二人もいるからな」
スルトが伸びてもいない鬚を擦るかのように顎に手を伸ばす。
「静かにしていろ」
そう言うのは同行している担当看守ラング。
ここ暫く姿を見せていなかったが、どうも担当を外された訳では無かったようだ。
先日の騒動が影響してか、今日はかなり大人しく怒号を上げ侮辱するような発言は控えられている。
「おいラング、俺が詰んだ実績で他の仲間も引き上げるという条件忘れていないだろうな?」
「あぁ、分かっている」
ラングが言うことにも大人しく聞いているように見える。
本人に、なにか思うことでもあったのか。
これまでの行いに対して猛省をし、心を入れ替えた。そんな美談のような背景があるのなら良いが、どうしてもトガが言っていたことが引っ掛かってしまっている。
気を付けろ、ね。
となれば、この静けさが却って不気味に感じてしまう。
転移が終わり、いつもの見慣れた、いや見飽きた光景が広がる。
近くに魔獣の気配はするが、まだ遠い。今すぐに戦闘が始まるという感じではない。
「行くぞ。付いて来い」
ここまではいつも通り。
私達は特に逆らうような真似はせず、言う通りに付いて行く。念の為に、と警戒してキョロキョロと辺りを見回すが、変わっている点は見受けられない。
それは私だけでなく、スルトとガランについても同様だがなにも言わない辺り感じていることは同様だということか。
分岐現れる。
魔獣の気配を辿るのならそのまま真っ直ぐ進むのかと思ったが、ガランはそれを左に折れる。
避けた?
ここがどこの場所であるかは未だに分からないのだが、Gランクのそれと比べると遥かに分岐が増えている。
まるで迷宮だ。
世界にダンジョンは数多くあれど、ここまで広いものには殆ど御目に掛ったことが無い。
進む先にも魔獣の気配はある。
だが、ここでもラングはそれを避けるかのように曲がってしまう。
一、二度なら良いのだがそれが数回続くとなるとこれはおかしいとなってしまう。
「おいラング。さっきからわざと魔獣を避けていないか?」
「……黙っていろ」
「おかしいだろ。まさか実績を詰ませないという形で妨害しようってんじゃねえだろうな?」
「それは無い。もう少しだから黙って付いて来い」
「お前の言うことはもう信用ならねえんだよ」
ガランが不機嫌そうに舌打ちをして締める。
あの一件でラングだけでなく、看守の立場は揺らいでしまった。
第零監獄にいる囚人は他と比較してもとんでもない奴が多い。それだけ重ねた罪も酷く重い。
他のランクでは囚人が看守に暴行を加えるという事態も起きているそうだ。
「……ここだ」
唐突に、なんにも無い場所でラングは足を止める。
なにを言っているのか、と私達も足を止めて周囲を見回すがやはりなにも無い。
「おい、俺達を馬鹿にしているのか?」
「そんなことは無い。確かにここで合っている」
「合っている?」
妙な言い方に眉を顰めていると、
「お前達の死に場所のことだよ」
ラングの声に生気が戻り、掲げた手を振り下ろし地面に触れると大きな魔方陣が展開されていく。
「これは移送法陣!」
「なんでこんな所に!」
「おいラング!テメェどういうつもりだ?」
これは明らかに用意されていた罠だ。
慌てて術式の外に出ようとしていたが、結界を張られているせいでそれが出来ない。
「どういうつもり?いやいや見たままだ。お前達はここで死んで貰う」
結界の外で、死に体だったラングが笑みを浮かべる。
「ここで死ぬ?冗談言わないでよ。必ず、必ず生きて帰って報いを受けさせてやるわ」
そして術式は発動し、私達は知らない場所に転移させられることになる。




