表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/148

93話 本の悪魔

 あるとされている、というだけの書物を探し続けること数十分。


 書物の背に刻まれている題名を流し読みし、時折適当に手に取ってパラパラとページを捲っては落胆をする。


 ただそれだけとは言え、単調作業が過ぎて段々と疲労の色が濃くなって来ている。


 私とガラン。


 二人の間で溜息が会話代わりになりそうだという頃、突如目の前に小人のような存在現れた。


「な、なに?」


「分からねえ。一体いつからいたんだ」


 向けられる無表情で、妙にくぐもった目はどこに焦点を当てているのかが分からない。


 おかっぱの黒髪に、ヒラヒラとした着物のような衣装を纏っている私の膝下程の小人は幼い顔を僅かに動かしたかと思えば、なんにも言葉を発しないまま踵を返して歩き出す。


「…………」


 黙って遠ざかっていく背中を見詰めていても事は進まない。


 第零監獄は私達が思っている以上に広く、もう何年も過ごしているガランでさえも全ての囚人を把握している訳ではない。


 だが明らかなのは、目の前の小人が私達と同様の存在ではないということだ。


 ふと気付けば、小人は足を止めてチラリとこちらの様子を伺っている。


「付いて来いってことなのかな?」


「だろうな」


 突如現れた得体の知れない相手を信じることは出来ないし、警戒心を高めたままゆっくりと引き摺るように足を動かす。


 大きな瞳に、黒目がちで正面から相対していると飲み込まれてしまうような感覚に陥る。


 だが付いて行かないという選択肢は無い。


 私が求める書物への鍵は、あの小人が握っているような気がして……いや、ほぼ確信に近いものを得ている。


 油断していれば蹴飛ばしてしまいそうな程に小さな身体だが、それには確かな魔力が内蔵されている。


 わざわざ第零監獄でこんな仕掛けを施す者がいるだろうか。


 ――――いる。


 小人が足を止め、私達の方へ振り返る。


 そしてゆっくりと、真っ直ぐに腕と指を伸ばしてその先にある書物を示す。


「これは……」


 緑に赤に、それに黒や橙。


 それは他の書物と比べて遥かに異質な見た目をしていた。良くも悪くも目立って、嫌でも視界にフレームインしそうな装丁だというのに、私達は揃ってこの存在を見落としてしまっていた。


 手に取りページを捲ると、今までそこにいた小人は煙のように姿を消してしまうのだった。


「一体なんだったんだろうな」


「さぁ。ただ、この本が私達を呼んだと考えても良いわね」


 心臓が高鳴るのを感じている。


 今までどれだけ探しても殆ど見つけられなかった世界樹に関する情報。それがこの中に詰まっているかもしれない。


 パラパラと求めるものに出会うまでひたすらにページを捲り続ける。文字は斜め読みし、違うと判断すれば即次へと進んでいく。


 凡そそれは読書とは呼べない行為で、粗雑とも言える手付きに紙を傷めるという懸念もあったが、今はとにかく湧き上がる感情を抑えることが出来なかった。


「どうだ?」


「ん―――…………」


 早くもページは全体の中腹に着いてしまっている。


 だが、求める情報は未だ現れてくれない。


 手の動きが遅くなっていく。


 気が逸りすぎて見落としてしまったのか、と逃避に似た思いを浮かべたところで、


「これ……」


 私は確かに見た。


 細かな文字が行儀良く並ぶ中で見つけた三文字の希望を。


――求める者よ。その力を示せ―――――。


「え?」


 その瞬間、白地の紙が突如暗転し水が跳ねたように波紋が広がっていく。眉を顰めたのも束の間、そこから突如手が伸びて私の顔を掴もうとした。


「――――ッ」


 指先は頬を掠めたものの、辛うじて避けることが出来たが驚きと衝撃で本を落としてしまった。


「おいおいおい。なんなんだよ一体」


「そんなもの、私が知りたいくらいだわ」


 手はやがて本を掴んでゆっくりと沈んでいるであろう身体を押し出そうとしている。


 甲高い鳴き声がする。


 そこから現れたのは異様な姿をした存在だった。


 真っ白な顔に、目は黒く星形に塗られ唇は避けるように開き真っ赤で妙に艶やかな色をしている。


 被っているとんがり帽子と衣装は本の装丁と同じ色合いしていて、見ているだけで目が痛くなりそうだ。


「あの顔色、化粧とかじゃなくてペンキでも塗りたくったような感じね」


 まるでサーカスに現れる道化のような出で立ちで、それは私を見て薄気味の悪い満面の笑みを見せる。


 ただの道化なら愉快な話で済むのだが、手には大きな鎌が握られていてとてもこれからショーを始めるような状況ではない。


 キキキ、と笑い声を発する。


 道化は表情そのままに私達を順に指差すと、なにが可笑しいのか肩を揺らす。


「出れた出れた。久しぶりに喰えるぞ」


 臨戦態勢に入る。


「おい、夢瑠!来るぞッ!」


 世界樹に関する情報を求めてよもや命を狙われるとは思わなかった。危険な相手であることに間違いは無いし、集中しなければならないのだが、私は道化の持つ鎌に意識が持っていかれていた。


 直後、それは振り下ろされ地面は深く裂けて本棚は真っ二つにされた。


「なんつー威力だよ」


「……………」


 間違い無い。


 道化の持つ大鎌。


 あれは魔王シリーズの一つだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ