90話 ただ、武器を振り回す
トガを半ば脅すようにして、無理矢理にでも転移させた先はもう修羅場と化していた。
「いきなりかよ」
ガランと、転がる重傷者にそして……。
「お?」
突然の来訪者に驚いた魔獣共が一斉に咆哮する。
空気が震え、降り掛かる恐怖にガラン達の身体が硬直する。だが、私と遠巻きに眺めているラングは平然とし影響を受けない。
偉そうに指示するだけの人間かと思っていたが、案外態度に見合った実力派備えているのかもしれない。
「さぁ行くわよ」
手にズシリと久しぶりに乗っかる重量に、不思議とどこか胸躍っている自分がいる。
戦意を見せたところで複数体の魔獣が私に照準を合わせて襲い掛かる。
先頭を走るのはウェアウルフか。
Aランクの囚人が案内されるだけあって、かなり強力な魔獣だ。これはいつか戦った殺人鬼オーガよりも格上になりそうだ。
「ハアァァァァァァァァァァァァッ!!」
私は手に握る黒の大槌、黒龍を思い切り振り回す。
狙いを定めもせずに、ただ力の限りぶん回してやるとなにも考えずに突っ込んで来たウェアウルフ数体を鈍い感触と音と共に吹っ飛ばした。
久しぶりに使う黒龍は、普段以上に軽く感じ、それが余って周辺の壁に大きな凹みを作ることとなる。
地を這うデビルスネイクについては、もぐら叩きよろしく黒龍を打ち下ろしてペシャンコにしてやる。
温存する意味合いを込めて、これまで拳一つで戦闘をこなしていただけに少なからずフラストレーションは溜まっていた。
今はそれを発散する絶好の機会だと言わんばかりに、今度は私の方から魔獣に迫っていく。
「ガラン!そこにいると邪魔だから退いて!巻き込まれても知らないからね」
多少の配慮はしたいが、気力が充実している状態に水を差したくない。ガランが血相を変えて仲間を引っ張って端に寄せていくのを見ながら、勢い良くウェアウルフの群れに突撃する。
蒼褪めているのはウェアウルフも同様で、武器を片手に興奮した様子で突っ込んで来る私を見て、露骨に恐怖しているのが分かる。
それでも戦おうとするもの、動けなくなるもの、逃げてしまうものと分かれるのは、魔獣如きにも意思や感情があるという表れか。
「まぁ逃がす気はサラサラ無いけどね」
地面を蹴って跳躍する。
回り込むと歯をガチガチと鳴らし、脅えるウェアウルフが。
「命乞いは、しないか」
流石にそこまでの知恵は無いようだ、と落胆したところで頭を一撃で潰してやる。
直後、隙を見て迫るウェアウルフ。
間合いを詰められ口の部分が当てられない状態だったが、黒龍を翻して柄で鳩尾を突く。
なにかが折れる感触から、魔獣の血反吐が飛ぶ。よろめき後退させたところで黒龍をフルスイングして吹っ飛ばす。
もはや一方的だった。
残る魔獣についても、無闇にいたぶるようなことはせず、一撃の元にその身体を潰してやる。
そうして気付けば存命している魔獣は無く、辺りには魔石が散らばることとなっていた。
「終わったわね」
スッキリした、と流れる汗を拭ってラングを一瞥しガランに目をやる。
「お、お前……こんなに強かったのか」
「まぁ、ね」
勝ち誇って見せたもの、ガランは私に対して恐れを抱いているようだった。これまでの行いのこともあり、この大槌が次は自分に向くのではないかと考えているのだろう。
「魔石は私が回収しておくから。アンタは負傷者を連れて医務室に向かった方が良いわ」
「馬鹿なことを。おい、勝手なことを言うな!誰がこれで終わりだと言った!」
牙を剥いたのは魔獣では無く、上級看守であるラングの方だった。自分の意向を無視して動こうとしているのが余程気に入らないようだ。
「これだけ負傷者がいて、これ以上がなにが出来るってのよ?魔石が足りないのなら私一人で動いても良いわ。とにかくガラン達を撤収させろ」
強力な魔獣を一掃したことでラングの見る目が変わった。
少し言葉尻を強くするだけで怯んでしまったようだ。とは言え、納得はしていないようで、プライドを傷付けられたことも相まってか強烈な怒りを感じる。
それは私達ではなく、まだ若い下級看守であるトガに向いてしまう。
「撤収だ。おいトガァ!早くしろ!俺は先に行っているからな!」
ラングは声と鼻息荒げに一人背中を向けて姿を消してしまった。
この展開に付いていけていないトガは未だ呆気に取られてしまっていたので、私が軽く小突いてやるとようやく我に返った。
「ほら、私達もここから離れるわ。負傷者を一刻でも早く治療してやらないと」
トガは無言のまましきりに頷いて転移魔法を展開させる。
「悪かったわね。無理矢理引っ張ってしまって」
「あ、あぁ。仕方が無いよ。結果としてこれで良かったんだ」
そう言うトガの言動はやはりここの看守らしさが無い。まだ心が汚れていないということか。
ガランが負傷者を術式の上に運んでいるのを眺めながら、私はこの先に伸びる道に目をやる。
「どうした?俺達も行こう」
トガが言うと、私は被りを振ってなんでもないと答えておく。
この先にいるであろう魔獣。
一瞬不穏なものを感じたが、気のせいだろうか。
いや、そうであることを願う。




