85話 獄内の特赦
「お互い息災そうでなによりだな」
「みたいね」
仕事終わりに与えられる僅かな自由時間。
私達は食堂でそれぞれの食事をしながら、同じく独房に入れられていたスルトと時間を共にしている。
似た懲罰を受けていたのだが、解放されたのはスルトの方が数日早かったようだ。
「違いとしては、単に連中の心象の差だったんだろうな」
スルトの言っていることは間違っていない。
性別のことがあるのか、はたまた端から気に入らないとでも思われていたか、初対面の段階で絡まれていた。
それが連中の癇に障ったということ。
「ただ、なんでスルトのランクがDにまで上がって来たというのに、私はGのままなのよ」
解放された時期に違いはあるが、それから積んできた実績にそう大差は無い筈だ。
仕事をしているエリアが異なっていて、それに伴い難易度もそうであるとしても、私のランクが未だ最下層になっているのはどういうことか。
「納得いかないわ」
「これも心象の違い、だったりしてな。どうだ?ここは一旦、連中にごめんなさいしておくってのは?」
カァッと全身の体温が急上昇するのを感じながら、持っているフォークを更に突き立てる。
「冗談でしょ」
スルトは特段怯む様子も無く、フッと薄く笑みを浮かべた後に諸手をやや上げる。
「だろうな。夢瑠はそういう奴だってのは俺もよぉく分かっている。そういえば、俺達を嵌めたガランの野郎だがあの後更にランクを上げたみたいだぜ」
特に見せてやるべき反応は無い。
私達に絡んで来た先輩連中のリーダー格、ガランという男は一部看守達と繋がっている可能性が高い。
私達が独房に閉じ込められることになった後、まるで計ったかのようなタイミングでガランのランクが上がることになる。
BからAへと。
なにも驚くことは無い。
「Aということは、最高ランクSまでもう少しだ。そうなれば実績や貢献度から特赦を受けられることになるな」
「ん?そんなのあるの?」
特赦があるだなんて想像すらしたことが無かった。
その内容も見当付かない。
監獄内に貨幣という概念が無い以上、恩恵を得られる余地というのは精々食事等の扱いくらいかと思い込んでしまっていた。
「出獄だ」
思わず目を見開いた。
それは全ての囚人にとっての最重要事項であると言っても過言ではない。
「でも、この第零監獄に入った囚人が出られたことは無いって聞いてるけど?」
「あぁ、間違ってねぇよ。今までここでSランクに到達した囚人がいなかっただけだ」
ここ数年で出来た新しい監獄ということは無いというのに、出獄という特赦がありながら、これまでそれが適用されたことが無いというのは、明らかにおかしいことだ。
「Aランクに上がってからは仕事内容が変わるみたいだからな。それを越えられないということだろうよ」
そうだろう、としか言いようがない。
意図的に囚人を外に出さないようにしていると考えるのが自然だ。
ガランは実力、というよりこれまでの実績やそして癒着でAランクにまでのし上がったのだろう。
そういう意味では例外となるかもしれないが。
そんな話をしていると丁度良いのか、悪いのかガラン達が食堂に入って来た。
様子を伺っているが、普段我が物顔で大きな声で会話をし、椅子やテーブルを蹴って他の囚人の食事を妨げるような男が、今日はどうにも静かで大人しくしている。
というよりピリピリしている。
いつもガランの後ろを付いて来る取り巻き連中も、周囲を睨み威嚇はしているものの、目立った行動は起こそうとしない。
「そりゃここで下手な問題を起こせば、懲罰からのランクダウンも有り得るからだろうな」
「看守と繋がっているかもしれないのに?」
「結局のところ、立場は対等では無いのさ。出す、出さないの権限はアイツには無い」
「あ」
取り巻き達の最後方。
そこにいたのはアイガーだった。
私達と目が合うと、即座に顔を背けられてしまった。
「アイツ、どうもガラン達と手を組んだみたいだぜ。おかげで懲罰も受けてないし、ランクだってCに上げて貰えてたし」
「……………」
「怒らないのか?俺は結構苛立ってるけどな」
「そりゃ思うことはある。でも、これで怒っているようでは、ね。今までも経験してことだし」
頬杖を突いて、余裕ぶって答えておくが、なんのことか分からないスルトはただ眉を顰めるだけだった。
私はグデーッと腕を枕代わりにして、横向きに連中を見詰める。
私としてはこのまま上手く事が進んでくれても良いと考えている。
初の出獄者となって、実例を作ってくれれば後続としてのモチベーションにも繋がる。
それに監獄内の厄介者がいなくなってくれる。
逆に上手くいかなければ……。
「さて、どうなるかな」
所詮私は蚊帳の外にいる側だ。
どっちに転んでも良いってことで。




