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84話 思いのままに拳を振るう

 マッドリザードが地を這いながら獲物を仕留めんと迫る。


「―――――ッ」


 漂う臭気。


 ここでのマッドは間違い無く汚水とヘドロの類だ。魔獣が動く度に纏わりつく悪臭が振り撒かれ、折角胃袋に収めた物を吐き出してしまいそうになる。


 グロテスクな見た目に、攻撃することが躊躇われてしまうが持っている爪と、そして牙が要注意となる。


 それ自体の殺傷力はそう高くは無いが、問題は牙が含んでいる猛毒の成分にある。


 噛まれてそれが体内に入り込めばまずタダでは済まない。


 唸り声を上げ、殺気満々ではいるが動き自体は鈍く攻略はそう難しくはない。


「うッりゃぁ!」


 四つん這いで低く迫るマッドリザードに拳骨を落とす。


 ザラりとした鱗でその身を覆ってはいるものの、防御力は低く柔らかい肉は拳状にめり込んだまま戻らず、マッドリザードは衝撃に白目を剥いて突っ伏してしまった。


 油断させる気かと少し警戒はしていたものの、マッドリザードがすぐに魔石に変わり安堵した。


「案外脆いのね。これならなんとかなりそうだわ」


 未だ残る倦怠感と脱力感。


 不安感は強いがこの程度ならなんとか凌げそうだ。


 それにしてもどこかの地下路のような場所、ここは一体どこなのか。いつぞや嵌められた時とかなり似ているが、現れる魔獣が違う辺り完全に同一ということは無い。


 エリアが異なっているといったところか。


「うおッ!!」


 突如視界の外から魔獣が降って来て肝が冷える。


 瓦礫でも崩落したのかと思っていたが、そこには地を這うマッドリザードが舌なめずりをしながら私に照準を合わせていた。


 乱立している大樹のような石柱を見やれば、成程、今も複数体それに張り付いて私達の様子を伺っている。


「ま、ちょっとしんどいけど問題無いわ。良いリハビリ相手になってよ」


 看守の目がある以上、手の内を隠しておきたいし魔武器はまだ温存する。


 駆けて、懸命に拳を振るい続ける。


 牙だけは避けて一体ずつ撃破していく。


 身体を動かす度に力が抜けていくような感覚に襲われるが、それ以上に高揚感が心を満たそうとしている。


「はッ!次、早く来なさい!」


 不思議と笑みが零れる。


 有り体に言えば楽しんでしまっている。


 拳を振るい、血飛沫が舞ってそれが肌に触れようとも、それを拭う時間が惜しいとさえ感じる。


 拳を伝う確かな手応えを忘れない為、白目を剥き、時には目玉が飛び出してしまっているマッドリザードに対して、意図的に駄目を押す。


 仲間が殺されていく様を目の当たりにしてもなお、魔獣達は己の欲望を満たさんと愚かにも立ち向かう。


 知能指数が低いというのはこういう時に便利なのかもしれない。


 少しずつ傷跡が刻まれていく。


 痛みは感じない。


 ボロボロになりながらも力を振るい敵を屠っていく。


 まるで―――――…………。


「終わったか……」


 周囲の魔獣は粗方片付けてしまった。


 疲れはあるが、不思議と充足感がある。


 悲鳴が聞こえる。


 見れば、すっかり忘れていたが同行していた囚人達が未だ少数のマッドリザードに四苦八苦していた。


「助けに行かなくて良いのか?」


「あ、いたんだ」


 どこかで見ていたであろう看守が心配そうに声を掛ける。対象は言われなくても分かっている。


「無視するわ」


「意外だな。お前は他の囚人と少し違うと思っていたが?」


「そうね。でもその囚人達に嵌められて、私はお前達に独房に閉じ込められるようになったからね」


「そ、そうだな。それについては済まないと思っている」


 看守からとんでもない言葉が発せられた。


 ここにいる看守共は、どいつも傲慢で自分達が偉いと思い込んでしまっている。


 それ故に自分達の非を認めるようなことは決して無いと思っていたが。


「私に言わせれば、アンタも他と違うわね。見た目からしてかなり若そうだけど新人?」


「半年前に、な」


「そう、ところでこのタイミングだけど教えて欲しいことがあるわ」


「なんだ?」


 新人看守トガは不審そうに眉を顰める。


「世紀の奇人と呼ばれた男が残した手記について」


 数拍の間。


 トガの表情からは今の感情は読み取れないが、即座に否定しない辺りどうもここにあるというのは本当のようだ。


「今のお前にそれを手に取ることは出来ないよ」


「どういうこと?」


「第零監獄で保管している図書の類は、一定のランクに位置付けされた囚人しか手にすることは出来ないからだ。Gランクのお前ではどうすることも出来ない」


 ここではランクに応じて権限が変動する。


 それは食事だけに限らないということか。


「あ、そ。だったら手っ取り早くランクを上げるしかないわね」


 自覚は無かったがどうも機嫌が悪くなってしまったようだった。


 首を数度回した後、向こうで未だ残っているマッドリザードを一掃してやった。


 驚き、怒り、感謝と他の囚人からは色々な感情を向けられたがそれらは無視して、魔石だけを回収していく。


 そしてトガにそれを見せつける。


「これでかなりランクアップするんじゃない?」


「あ、あぁ、そうだな………」


「?」


 控え目に見ても結構立派な量になったと思える。


 だが今のトガの反応……やけに歯切れが悪い気がしたのだけはやや引っ掛かってしまった。

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