83話 仕事再開
いつの間にか朝になっていたようだ。
独房に閉じ込められてからというもの、その劣悪な環境により寝不足になることを余儀無くされていた。
そのせいで夜に目を閉じていても眠っていたという感覚があまり無く、自分がただボンヤリと時間を過ごしていただけなのか、一体どちらなのか分からなくなっている。
カツンカツン、と靴底が地面を叩く音がする。
看守の巡回だ。
こんな薄暗い場所に閉じ込められていては気が触れてしまう者だっていたことだろう。
実際に夜になって叫び出す者もいて、それに釣られて私まで引っ張られそうな感覚に陥ったことさえある。
足音が私の前で止まる。
顔を上げれば看守が……。
「出ろ」
それだけ告げると、鉄格子を開けて鎖を外してくれた。慣れているだけあって、その手際は滑らかで淀み無い。
「……随分早かったわね。もうちょっと掛かると思っていたけど?」
「………………」
なにも話す気は無いようだ。
立ち上がると貧血状態のようにフラついた。
看守の後を付いていくのだが、歩くこと自体が久しぶりとなっていたせいで足の動作に違和感がある。
歩きながら視線だけを動かして、他の独房の様子を伺うがやはりというか先人達の恨めしそうな表情が飛び込んで来る。
何故お前だけ……。
そんな怨嗟の声が今にも聞こえて来そうだ。
私の方がそれを聞きたいくらいだ。
案内された先、ランクのことを考えればまた牢屋になるのだろうが意外だったのはそこが食堂であったことだ。
そこにいる囚人達の顔ぶれに、微妙な変化はあるもののそのどれもが私を見て驚いた様子を見せる。
「丁度良い時間だ。牢に案内する前に食事を済ませておけ」
「そ、悪いわね」
浅い呼吸をしながら手を振って歩いて受付へ向かう。
薄いガラス戸の向こうで中年女性が厳しい視線を向ける。気を遣ってか、表情には出していないがここでも嫌悪感なるものはあるようだ。
「Gランク、ね」
中年女性はそれだけ言って奥に引っ込み、すぐにお盆に乗った料理を出して来た。
「あれ?」
「なんだい?」
中年女性が睨む。
ガラス戸に設けられた僅かな隙間からそれが通って私の手に渡る。
見間違えなんかではなく、その料理の量は他のそれと比べてかなり多い。米が中心で豪華な総菜は無いが、それだけでも有難かった。
「ありがとうね」
「まぁ、前向きに頑張りな」
中年女性は鼻を鳴らし、すぐにそっぽを向いてしまった。
私もこれ以上はなにも言わず、親切心に甘えさせて貰うことにした。
久しぶりにまともな食事にありつけると油断していたせいで、座る席を探していると他の囚人と肩をぶつけてしまった。
「おい」
「あ、あぁ悪いわね」
食器に盛られている料理がこぼれていないことに安堵しつつ、相手に詫びを入れて顔を上げると、そこにいたのはガランだった。
最も出会いたくない相手。
「……………」
だが、ガランは拍子抜けなまでにあっさりと、一度舌打ちするだけでどこかへ行ってしまった。
「なんなんだアイツ」
関わり合いになりたくないし、これ以上の詮索は無用であり私はようやく腰を落ち着ける。
「――――――ッ!!」
単なる米を口にした瞬間、私は久しぶりに味わうまともな食事に感動してしまった。
こんなに美味しい物を口にしたことが無い。
そうなるとあの理不尽極まりない懲罰に耐えて良かったと思うばかりだ。
途中から方針が変わり、咀嚼し食事を楽しむことより寂しげに泣き続けていた胃袋を満たす為、半ば飲み込むように食べ物を通すことになった。
色々満たされ、周囲を見渡す余裕が出来ると私と同じようにボロボロな状態でいる囚人がチラホラ見えることに気付く。
顔面の殆どを包帯で覆い、やっとやっと食事を口に運んでいる姿を見ているとかなり痛々しい。
第零監獄での囚人に課せられる仕事が、どこぞのダンジョン内で魔獣と戦闘をすることである以上、適正値が低いとかなり酷い状況だろう。
「ゾッとするわね」
かと言って助けてやれる余裕も、義理も無い。
「もう食事は済んだのか?」
「おっ?」
そうやって周りばかり見ていたせいで、すぐ傍に立っている囚人にまるで気付かなかった。
「終わったのなら行くぞ。付いて来い」
眉を顰める。
「どこに?」
「仕事だ」




