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81話 奇人が残す手記

 灯りの無い狭い個室で静かに時を過ごす。


 唯一差し込む月明りだけが視覚を働かせ、平常心を維持させてくれる。


 金属同士が擦れる音がする。


 これは私に掛けられた呪いによるもので、なにも特別なものではないのだが、今耳にしているのは手首に巻かれている実物の鎖から発せられるものだ。


 独房幽閉。


 これが私に課せられた懲罰だった。


 Cに位置付けられていたランクは取り上げられ、最低のGランクへ落とされてしまった。


 伴って待っているのは粗末な待遇だった。


 昨日までのある程度充実していた食事は、まるで犬の餌であるかのような品質となった。


「うぇ……」


 腐っているんじゃないかってくらい不味かった。


 グズグズな食感に、いつまでも残り続ける悪臭。それでも腹の足しにしなければ、と無理矢理にでも胃袋に詰め込んだものの、却ってダメージを受けたんじゃないかと思えるくらいの吐き気に襲われている。


 気を抜けば、迂闊に深呼吸なんてしようものなら臭みが口やら鼻やらを駆け抜け、たちまち収めた物を吐き出してしまいそうになる。


「―――――ッ」


 顔の数か所と片目に鈍痛が走る。


 あのクソ看守達め。


 折檻と称してしこたま殴りやがって。


 脳裏に浮かぶのは白々しい茶番を繰り広げながら、獲物が掛かって狼狽する様を見ては笑う連中の姿だった。


 私を嵌めたリーダー格の男、ガランという奴は今までもこうして幾人もの新人を潰して来たのだろう。


「クソ……」


 今の私には精々毒づくことしか出来ない。


 私と同様にスルトもどこかの独房に閉じ込められていることだろう。見える範囲でもかなり数が有り、その中にスルトの姿は無い。


 元々が犯罪者の集まりだ。


 独房は沢山用意しておくに越したことは無いということか。


 舌打ちをする。


 私とスルトは独房へ、だがアイガーだけはその責を逃れることが出来た。元からガランと共謀していた訳では無いのだろうが、看守からの聴き取りの際、私達の目の前で無実を訴えただけでなく諸々を押し付けてきやがったのだった。


 いつの間にか怒りが込み上げ、鎖がギシギシと悲鳴を上げたところで冷静さを僅かに取り戻す。


 実際連中との戦闘には殆ど参加していなかったのだから、無実を訴えるのは当然だ。


 ただ、その当時の光景を思い出す度に、いつかの記憶と重なってしまう。


 私の機嫌を取る為、己の地位と利の為に仲間や部下を陥れる者は少なからずいた。


 それを分かっていながら放置していたのだから、今の私がアイガーに対してとやかく言えたものではない。


「明日からどうなるのかな」


 ポツリと呟くがそれに対する答えは無い。


 手持無沙汰で、小さな窓から月を眺めて時を過ごす。


 現状への嘆きや苛立ちによって眠気が覚めてしまっているのに加え、腹部から度々悲鳴が聞こえてくるせいで、まるで眠れる気がしない。


「藁、よね」


 終いにはあまりにもお粗末な寝具だ。


 クッション性なんて皆無だ。子供の遠足に使うような敷物と同等の薄さであり、なんなら雑な作りでささくれが存在している分、こっちのが質が悪いくらいだ。


 これがGランク。


 初日だからまだしも、これが続くとどんどん衰弱してしまうことだろう。


 死者も出ることだろう。


「……………………」


 何気に鎖を引っ張ると、それだけでギシギシと軋む音がする。これまで幾人もの身を縛って来たことだろう。


 見た目は金属の銀色ではなく、老朽化の錆色をしている。


 千切ろうと思えば千切れてしまう。


 あとは立ちふさがる鉄格子を破壊さえすれば、脱獄だって不可能では無い。


 だが、私はそうはせずに鎖を握る手を緩めて遊ばせる。


 不本意な形で第零監獄なんて場所に来てしまったが、ここには私が探している書物が存在しているとされている。


 世紀の奇人と呼ばれた男が残した手記だ。


 スキルを駆使したのか、世界中のあちこちに出没していたとされている男。


 その男ならば、私が辿り着きたいと願う場所に関する情報を持っているかもしれない。


 そんな期待を胸に秘めながら、眠気も無いというのに目を閉じてこれ以上の思考を閉ざすことにした。

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