80話 狙い
私の予想に反して連中は諦めず粘りを見せた。
だが、それだけで急激に強くなるということは当然無く、厳しい現実を突き付けるだけの結果になる。
「なんだろう。そんなに私達が憎いかね。同じ囚人として仲良くする気は無いのかな」
私自身ここに長居する気はさらさら無いが。
私がそう言ったところで全員が気を失っている状態で反応は無い。何度もゾンビのように立ち上がっては、不必要なダメージを与えられていたのだから当然だ。
「にしても、向かって来る割には対して気が入っていなかったようだな」
スルトが拳をさすりながらそう言う。
「あぁ、私もそれは思った」
最初の殺気はどこへ行ったのか、途中からは本当にただ立ってくるだけでまるでやる気を感じなかった。
一体何だったのか。
その答えは数分後に出ることとなる。
「おうお前等。まだそんな入り口付近にいたのかよ」
薄暗闇からゆっくりと現れたのは連中のリーダー格の男だった。どこへ行ったのかと思っていたが、後方に従えている男達が抱えているのは魔石か。
私達が足を止めている間、自分達だけ先に進んで魔石を手に入れていたとは。
「そんな程度じゃ、今回の仕事でのランクアップは難しいな。いや、むしろダウンが待っているか」
男が愉快そうに笑うと、後方の取り巻き達もニヤニヤと気色の悪い笑みを見せる。
「この馬鹿共けしかけてよく言うわ。良いわ、今からでもこの先で魔獣をぶっ倒して少しでも足しにするから」
「そうは行くかよ」
男がポツリと何事か呟いた。
「は?なにを言って――――――――」
眉を顰め、言い掛けたところで男が大声を上げる。
「おい!お前等どうしたんだ!?一体誰にやられたんだ?」
茶番が始まった。
私含めスルト、アイガーの頭上にはクエスチョンが浮かんでは踊っている状態だ。
誰がもなにも連中をけしかけたのはお前だろう。
「いやいや、アンタなにを言って―――」
「お前等か!お前等がこんなことを……ちくしょうがぁ、ひでぇことをしやがる」
状況が飲み込めない。
連中を手酷い目に遭わせたのは確かに私達だ。だが、元はと言えば連中が仕掛けて来たからこそ起こったことだ。
なにがどうなっているのか。
男はわざとらしくその目に涙を溜めて、まるで状況を嘆き私達に対して純粋に怒っている。
そんな素振りを見せている。
仲間意識なんて決して存在していない。
「おい貴様等!一体なんの騒ぎだ?」
そうこうしているとやって来たのは数人の看守だった。
看守達は目の前で起こっている現状を見て、表情を険しくさせる。問いに対して私達が説明をしようとしたところで、男がまたそれを遮る。
「コイツ等だ!コイツ等が俺の仲間達を痛め付けたんだ!」
男が涙ながらに、大声で主張をし糾弾するかのように私達に指を差す。
看守達の動きが一瞬だけピタリと止まり、その後に視線は横滑りして私達に向ける。
「それは本当なのか?」
「ちょっと待ってよ。先にコイツ等が仕掛けて来たのよ?私達はそれに応戦しただけよ」
嘘を言ったところで無駄だ。
私は正直に経緯を教えるのだが、看守達の表情はまるで人形のように無を貫いている。
「そんな訳が無いだろう!俺達はいつも真面目に仕事をしていたんだ!きっとコイツ等が俺達を邪魔するために暴行したんだ!」
男は跪いて看守の服を掴み、縋るように叫ぶ。
「お前ふざけるなよ。コイツ等をけしかけたのはお前だろう!」
スルトが怒りを露わにする。
今にも掴み掛りそうで、見ている私からすれば肝が冷えるようだが当の男と看守はそれにまるで動じる様子が無い。
「悪いが貴様等の言うことになんの証拠が無い。だが、私達はこの男達がこれまで真面目に仕事をしていたことは知っている。この場合、どちらの言うことを信じるべきか?そんなのは決まっているだろう」
嵌められた。
私は今頃になってそれに気付いた。
どういう背景があるのかは分からないが、この男と看守達が繋がっているのは明白だ。
今思えば、私達を置いて場を離れて音沙汰無かった看守達が現れたタイミングにしても不可思議だった。
「真相については、怪我人が目を覚ましてかいくらでも明かされるだろう」
どう転んでも連中はその罪を私達に押し付けることだろう。
「屑同士とは言え、囚人同士の暴力沙汰はご法度だ。貴様等、タダで済むと思うなよ」
看守がようやく表情を崩したかと思えば、浮かべたのはなんとも品の無い笑みだった。
そして背後で男も笑う。
ここでの仕事は殆ど出来ないまま打ち切りを迎えることとなる。
この状況で看守が酔狂な判断を下すとは到底思えない。
その行き着く先は………。




