79話 返り討ち
生意気な後輩を先輩方が〆る。
これは厳しい上下関係が存在する組織に於いて、決して無くは無いことである。
だが、それとは別に同等レベルの規律がある筈なのにこんなことをしても良いのか。
「看守達が飛んで来そうな状態ね」
「んな心配はいらねえよ!これから俺達にぶっ殺されるんだからなぁッ!!」
男達は血気盛んに、目を真っ赤に充血させながら迫る。
先輩後輩の上下関係はあれど同じ釜の飯を食う関係性だってある。だというのに、連中は一寸の躊躇いさえも見せず嬉々として私達の命を奪わんとしている。
「う、嘘だろ!!おい、逃げようぜ!」
アイガーは獣じみた連中を見て腰が引けてしまっている。
「逃げてどうすんのよ」
連中は私達に危害を加えたくて仕方が無いと言った具合だ。ぶっ殺す、と言うのがなんの比喩でも無い可能性すらある。
「だって勝てる訳無いだろ。アイツ等は俺達より格上なんだぜ!看守達に報告して助けて貰うしか―――――」
「その看守が黙認しているとしたら?」
「え?いや、あれはあくまで噂話だって」
有り得ない話では無い。
なんの確信も無いがどうにも胡散臭い。
看守達による囚人の間引き。
もしそれが本当のことであったしたら、この馬鹿な先輩方と繋がっているようなことがあれば―――。
「女だ!女ァ!!」
「ま、関係無いけどね」
降り掛かる火の粉は払ってしまわなければならない。
それは魔王時代によく理解させられたことだ。
人間止めたのか、と問いたくなる程に狂った表情を見せながら迫る男の顔面に拳を打ち込む。
「あ……?」
男は鼻から血を滴らせ、その表情は呆気に取られて間抜けなものへと変貌している。
脳が揺れたか、朦朧とした意識の中で未だ現状を掴めていない男に教えてやる。
「その程度で私を襲おうとはね。今度からはしっかり相手を見定めることね」
がら空きの顔面に容赦無く拳を叩き込む。
「まずは一人、と」
一体何人で徒党を組んでいるのか。
一人、二人倒した程度では敵が減った感じがまるでしない。
逃げ腰になってしまっているアイガーを他所に、私とスルトは次々と敵を打倒していく。
まるで手応えの無い相手であり、ほんの少しの労力で昏倒させている辺り見方によっては私達が連中を虐げているのではないのか、という錯覚に陥りそうになる。
持っている武器はどれも鈍らで、特段気に掛けること無く防御したところで薄皮一枚裂くことすら叶わない。
ふと気付く。
あのやたら私達を目の敵にしていたリーダー格の男が居なくなっている。
有象無象に紛れていたせいで気付かない内に倒してしまったか、と拳を振るいながら辺りを見回すもやはり姿は見えない。
「自らの手は汚さないってやつかな。とんだクズ野郎ね」
憎き敵の相手のことを思い出して苛立ちを覚えてしまう。
鈍い音がしたかと思えば、スルトが敵をぶん殴って倒しているシーンを目にした。
手段も結果も同じではあるが、ダメージの度合いで言えばスルトのそれの方が上だ。
私が敵を倒しているのに対して、スルトのそれは壊していると例えるのが適切に思える。
連中が白目を剥いたまま口を開けて失神している様を見てゾッとした。
「にしてもさっさと諦めてくれないかな。こんなの倒したってなんの足しにもならないし」
多勢に無勢。
地の利もあって、有利な状況を作っておきながらも劣勢を強いられているのだ。ボチボチ訪れる結末を察して、動きが鈍ってくれることを期待しているのだが、今のところそんな気配は無い。
迫る男の腹部に拳を捻じ込むと、あっさりと身体をくの字に曲げ滑稽な面を近付ける。
このまま顔面を殴って終いにしてやろうかと考えたが、その途中で方針を転換し、軌道を変えた拳は男の鎖骨をへし折ることとなる。
響く男の断末魔の叫び。
激痛により発せられるそれで、男達の動きがあからさまなまでに鈍った。
マンドラゴラじゃあるまいし、流石に絶命する者はいないがそれでも十分過ぎる効果はあった。
「そろそろ止めにしない?」
「ふ……ふざけるなぁ!テメェ等如きが生意気抜かしてんじゃねえ」
「はぁはぁなるほど。続けるってんならそれでも良いよ。でも、コイツを見てよ。他と違って一思いに失神させられず骨折の激しい痛みに悶えているでしょ。アンタ等もこうなるけど?」
一人一人は大したことは無い。
所詮は有象無象。
徒党を組んだところで私達をどうこう出来る筈が無いのだが、それでも人数を掛けて連携さえ組めていればまた違う結果があったかもしれない。
それでも、間違い無く先陣を行く数人を重傷を負うことになるが。
先々を考えない、如何にも軽薄そうな連中だ。こうして集まっているのだって、なにかしら見返りがあるからであって信念の欠片さえ持っていないことだろう。
「―――――――ッ」
当初の勢いは完全に失ってしまった。
そうなれば瓦解するまでもう時間の問題だ。
そう思っていた。




