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78話 相対する

 現れたのはレッドラットとヘルハウンドの混合。


「スルト、そっち任せる」


「指図するんじゃねえよ」


 スルトには数の多い方であるレッドラットを任せ、私は三体のヘルハウンドを受け持つ。


 連携もなにも無いのは私達に限らず魔獣達も同様だ。各々が沸き立つ感情と食欲のままに、獲物を肉を引き裂かんばかりに飛び掛かる。


 まずは躱して一体ずつ処理していこうと拳を固めている。


 視界の外からなにか飛び、内一体のヘルハウンドを貫いて霧散させてしまった。


「おいおい!俺を忘れないでくれよ」


 今の攻撃はアイガーからのものだったか。


 詳細が気になるが今は迫る二体に集中する。


 幸い一体減ってくれたおかげで手に余るということは無くなった。私は両手でヘルハウンドの首根っこを掴んで締め上げる。


 二体共苦し気に呻き、掴む手に鋭い爪を立てることすら出来ずにいる。体毛に覆われていて分からなかったが、ヘルハウンドの首は思っていたよりも太く、今の力ではそのまま骨をへし折ることは出来無さそうだ。


 内心舌打ちをした後、体重を乗せて二体を硬い地面に叩き付けると鈍い感触が手に伝った。


「す、すげぇな。Cランクってのは伊達じゃなかったんだな」


 振り返ると、アイガーが今の戦闘を見て大きな唾を飲み込んだ。昨日のことは知らないから、あの先輩方が言う通り運否天賦で位置付けされたランクだと思っていたようだ。


「それ、弓だよね?どこから出したの?」


「え、今聞くの?スルトの奴は……終わってるか」


 スルトは息も切らさず潰れたレッドラットを見下ろしている。


「あ、こ、これはインベントリってので容量は限られているけど、空間に物を収容出来るんだ。この弓はそこから取り出したんだ」


 やはりそうだったか。


 武器を具現化させたのかどちらかと迷ったが。


「でもそれって結構レアな魔道具な筈だけど。よく手に入ったわね」


「ま、俺程にもなればちょちょいってな」


 アイガーは軽快に笑う。


「アンタがここに来たのはその手癖の悪さが原因ってことね」


 にしても、盗みやその類でここに投獄されるとか一体なにを盗もうとしたのやら。


「そういう夢瑠はなにやらかしたんだよ?」


「んーとある魔獣の封印を解いた、という罪を着せられたって感じかな」


「とある、魔獣?」


「ノーブルレッドって奴」


「マジ?昔に封印されたとんでもない魔獣じゃん!おま、なにしてくれてんの!」


「罪を着せられたって言ったでしょ。それにその魔獣については現れた勇者がなんとかしてくれたわ」


「あ、輸送される直前に号外かなにかで見たわ。勇者が誕生したって。あれって夢瑠が関わっていたんだな。ははぁ、道理でこんなところにぶち込まれる訳だ」


 アイガーは腕組をし、うんうんと頷いてどこか感心しているようにさえ見える。


 私には分からない感覚だが、罪人には罪というものにまた違った見方があるのかもしれない。


「で、スルト。アンタは一体なにをしたんだ?」


「お前達には関係無い」


 それだけ言ってスルトは一人薄暗闇の中へ歩を進めていく。私達もそれを見て雑談を休止し追随する。


 あちこちに死骸が転がっている。


 いつからあるのか朽ちたものから、妙に瑞々しい新しいものまで。


 そして新たな襲撃者が現れる。


 ヘルハウンドとレッドラットの群れで顔ぶれに新鮮さは無い。レベルにしても大差は無く、ここでも楽勝に蹴散らし魔石を稼がせて貰うことになった。


「この調子なら今回もランクは維持、もしくはアップも期待出来るかもな」


 アイガーは変わらぬ余裕で口笛混じりに軽口を叩く。


 ここに放り込まれた時はどうなるかと思ったが、現状強力な魔獣は現れていない。


 これが続いて一日が終わってくれるならどれだけ良かったか。


 小さな舌打ちが聞こえた。


「おいおいおい。なんだよ、無傷じゃねえかよ」


 少し先で大きな声がしたかと思えば、ぞろぞろと面の悪い男達が現れた。


「おい、お前等が持っている魔石を俺達に寄越せ」


「は?なんでよ?」


「うるせえよ、口ごたえなんて許してねえ。良いから寄越せ。本当は無理矢理でも良いが、これは温情のようなものなんだ。大人しく渡すなら危害は加えずにいてやるよ」


「先輩方も魔石をたんまり持っているようですが?」


「足りねえんだよ。それに目的はそればかりじゃないからな」


 男達はニヤニヤと笑みを浮かべてさぁ、と手を伸ばす。


 アイガーは一応の拒否反応を見せながらも私達の顔色を窺おうとしない。その表情からは敵意というより、懐柔される方に傾いているのが分かる。


 今後の過ごし方を考えれば身の振り方というものを意識しておくのも悪くないが。


「ゆ、夢瑠?」


 気付けば、私は手を出してアイガーが行く道を遮っていた。


「私達が大人しく従うと思う?魔石を寄越せ?馬鹿ね、欲しければ奪ってみなよ」


 スルトが静かに頷く。


 ここでの結果でこの先が変わる。


 苦戦は論外。


 求めるのは圧倒的な勝利となる。

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