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76話 獄内の仕事

 一夜が明けて朝食。


 昨夜荒れていた連中は私を見るなりに睨みを効かせるものの、看守達の目を恐れてか早まった行動には出そうにない。


「よぉ、よく眠れたかよ?」


 欠伸混じりにそう言うのはスルト。


「全然ね。ベットが硬すぎて腰痛もあるわ」


 スルトを見ていると釣られて私も大口を開けてしまう。


 溜息を吐いてから顎をしゃくり上げる。


 その先には二日目にして顔色が悪くなってしまっている囚人が数人。食欲すらも無くなっているのか、食器に乗せられたささやかな食べ物さえ喉が通らないようだ。


「見てはいないが、あの様子じゃ相当劣悪な環境下に晒されているようだな」


「みたいね」


「随分淡白だな」


「アンタが言ったことでしょ。私自身、彼等に出来ることはないしね。私は私のことで精一杯なの」


 会話らしい会話もせずに黙々と食事を続ける。


 看守はいないが、どうせカメラかなにかで監視はされている。気にはしていないが、露骨に私語を交わしていれば目を付けられかねない。


 ただでさえ偉大なる先輩方からは早々に睨まれている訳だし。


 不要な因縁は買わないに越したことはない。


「貴様等!さっさと飯を済ませろ!仕事の時間だ!」


 一日なにをするのか、と考えが及びそうになったところで扉が外れんばかりの勢いで開く。


 先輩方は一様に気怠そうにしながら立ち上がり、動き出すものの状況が飲み込めていない私達はどうしても挙動が鈍い。


「なにをボサッとしている!さっさとしろ!」


 そんな私達に苛立ちを覚えた看守が、次に睨んだのは昨日絡んできた男だった。


「いやぁ?俺は伝えたんですけどね。アイツ等が聞いていなかっただけでしょ」


 男は頭を掻きながら嘯く。


 どう見ても明らかな嘘だというのに、看守はそれを疑いさえせずに信じて怒号を上げる。


 なにを言っているのか、まるで理解出来ない。


 それは内容云々よりも、あまりに音量に重きを置き過ぎている。ただ、威圧し相手を委縮させる為だけのものだ。


 そうして自分達の立場を分からせ、優位性を保つ。


「下らない……」


 ここにいるとどうしても嫌なことを思い出してしまいそうになる。


 今にも外れてしまいそうな記憶の蓋を必死に閉じてはいるが。


「聞いているのかッ!!」


 鈍い音がしたと思えば、看守が弱っている囚人を殴りつけていた。


 それはやり過ぎだ。


 まだ、誰もなにもやらかしてなんていないだろう。


「ちょ――――」


「止めとけ」


 言い掛け、制止しようとしたところで肩を掴むのはやはりスルトだった。


「他の囚人に情けを掛けるな。どうせ、誰も自分を助けてくれはしないんだから」


「……分かってる。いちいちうるさい」


 それから看守の横暴はどれだけ続いたのか、私は目を背けるようにして食堂を後にする。


 廊下に出て、先輩方の卑しい視線と笑みを感じながらも目を閉じて情報を遮断する。


 酷く不愉快だ。


「よし、集まっているな。では付いて来い」


 数分後に看守が廊下に現れる。


 痛むのか拳を何度も握り直し、時折擦っている。


 集まっている、とは言ったが明らかに数人足りていない。


 だが、それに言及する者はおらず看守自身も無視して歩き始める。


 至るところに設置されている監視用のカメラ。センサーが働いているのか、私達が通る度にそれらは忙しそうに首を動かしている。


 外界とは切り離された空間。


 決して多くない窓から見える景色は、晴れ間が広がり美しいというのに……今は随分酷い場所に連れて来られたものだ。


「ここだ」


 看守がボソッと呟くと足元に大きな魔方陣が広がる。


 それは転移の魔法であり、瞬く間に視界が薄暗く臭気漂う場所へと変わった。


「これ、腐敗臭か?」


 そこにいる誰もが鼻をつまむ。


 卵が腐ったとかそんな次元ではない。


 明らかに生き物が、それも沢山の死骸がある。


「昨日来た奴等は知らないだろうからこれから説明する。この臭いからもう分かっているだろうが、ここにはある魔獣の死骸が大量に置かれたままになっている」


 死骸は魔獣のものか。


 それだけではないのだろうが、ここで行うのはその掃除ということか。


「おっと、言っておくがここで掃除なんて必要ねぇ。貴様等にやって貰うのは、その死骸に群がる魔獣を殺して魔石を集めることだ」


 ここでの実績がまたランクに反映されるらしい。


 で、あれば手を抜く訳にはいかない。


「危なくなったら助けてやるから、頑張って仕事に励むんだな」


 説明はたったそれだけだった。


 看守が手を叩くと先輩方から先に動き始める。


 この先にどんな魔獣がいるのか。そして、危険なのはそれだけじゃない。


 精々気を付けないと、ね。

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