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72話 監視カメラの向こう側。催しが終わる

 外から見た照明等の派手さとは裏腹に、監獄内はコンクリートの灰色ばかりで景色がまるで変わり映えしない。


 後方から迫る気配はみるみる近付いてくる。


 視線を動かせば等間隔で見掛ける扉の数々。


 出入口で見た囚人達の人数からして相当の部屋が存在しているとは思っていたがかなり多い。


 試しに、と足を止めて取っ手を引くがビクともしない辺り室内に逃げ込むのはルールに盛り込まれていないようだ。


 分岐もかなり多く、時折足元に血が滴っているのは先程まで行動を共にしていた同期のものだろうか。


 死体が無いということはまだ生きている可能性はあるが、出血量からして相応の傷を負っているようだ。


「!」


 数メートル先、進路方向にはレッドラットと傷を負った囚人が見える。


 どこで拾ったのか、囚人は木の棒を懸命に振り回しながら迫る脅威を払おうとしている。


 内心で舌打ちをする。


 私がここに来たのは冤罪に過ぎない。


 今の境遇に対して同情の念は覚えなくも無いが、第零監獄に連れて来られている以上、ここにいる囚人達は漏れなく大罪人となる。


「どけッ!」


 助けてやる義理は皆無だ。


 が、放っておくのも間違っている気がしてならなかった。


 囚人達が殺されようと知ったことではないが、少なくとも魔獣に食われるという結末は間違っている。


 気付けば私は勢いのままに跳躍し、身を翻してレッドラットの脳天に拳を落としていた。


 レッドラットは火に水を掛けた時のような悲鳴と共に、大きな音を立てて倒れ込む。


「ふぅ、まぁこんなもんねっておい!」


 九死に一生を得たであろう男は、一時的とは言え脅威が去ったことで礼も言わずに走り去ってしまった。


「囚人に常識を求めるのは違うけどね」


 それでも呆れてしまう。


 つくづく違う人種なのだと。


 レッドラットが放たれてある程度時間が経過している。


 その数は不明だが、まだまだ残されていると考えた方が良い。


 そもそもどうなればこの催し事は終わりを迎えることになるのだろうか。よもや私達が全滅するまで、ということは無いだろうし、レッドラットを全滅させなければならないということも無いだろう。


 周囲に気を配りながら歩いているが、あちこちで衝撃音や悲鳴のようなものが聞こえ始める。


「む……」


 ふと見上げれば、それに呼応するようにカメラのレンズが私の方を向く。センサーが働いているのか、レンズ横で赤く点滅をしているが差し詰め監視用といったところか。


「悪趣味なことで」


 第零監獄にあるくらいなのだから、その性能は相当なものであり全てを網羅していたとしても不思議ではない。


 低く唸る声が聞こえたかと思えば、大きなレッドラットが現れた。


「相手は選んだ方が良いよ」


 苦笑いしながらその手に白兎を取ろうとしたが、咄嗟にそれを引き下げることにする。


「やっぱこの程度の相手には拳で十分だわ」


 わざとらしく声に出してから臨戦態勢に入る。


 レッドラットが両手を大きく広げて覆い被さるように、重心を傾けて今度はその手を交差させる。


 風切り音がし、壁に爪痕が深々と刻まれる。


 威力自体は大したものではないが、並の人間相手なら細切れにするくらい楽勝だろう。


 だが、所詮は格下だ。


 私のランクが現在D~Eだとして、このレッドラットはFが精々だろう。見当違いの予想かもしれないが、少なくともこれまで相対してきた敵と比較すれば格段に力は落ちる。


 レッドラットの鈍重な攻撃を避けて懐に入り込む。


 いかにも脂肪を蓄えていそうな腹部を思い切り殴りつけると、ただそれだけでレッドラットを沈めることが出来た。


 死んではいないが、今の一撃で数本の骨を粉砕したことでもう動けやしないだろう。


 こんなもんよ、と手を叩いて敵に背を向ける。


 この戦いはきっと監視カメラの向こうにいる連中にも届いていることだろう。


 なにが目的かは分からないが、手の内は見せない方が良い。


 幸い敵は脆弱だ。


 魔武器無しで十分凌げる。


 やり過ぎには注意しないと。


 間違って魔王化なんてしてしまえばどうなってしまうか。


 敵が大したことない以上、無駄に逃げ惑う必要性は感じられない。


 辺りでは依然として囚人達の悲鳴が聞こえている。


「…………」


 助けてやる義理は無い、がこの場合どうすべきか。


 結局私は走り出して一部囚人達を助けてやる羽目になってしまった。


「あ、ありがとう!」


「……凶悪な囚人といってもこの程度なのね」


 それから更にしばらしくして、監獄内で大きなアラートが鳴る。


 それは無意味ともとれる、この催しの終わりを告げるものだった。


 一度入れば二度と外に出ることは叶わないとされる、ここ第零監獄での初日。とりあえず生き延びることは出来た、と考えるとしよう。

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