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69話 第零監獄

 嫌な夢を見ていた、気がする。


 脳を回転させてその内容を思い出そうとするも、残念ながら一度奥底に引っ込んでしまった記憶を辿ることは出来なかった。


 思い出せないというのに、それが悪いものであったことだけは理解しているのはどうにもよろしくない。


「……………ッ」


 目を開けると、直後酷い頭痛がした。


 ガタガタと大きく揺れる視界に、まるで箱の中に閉じ込められたかのような狭い空間の中に私はいる。


 こめかみを押さえながら目だけ動かすと、私の他に複数の人間が席に座っている状態だった。


 視界が明滅するが、それは痛みによるものではな無く空間上部にたった一つだけ取り付けられた白色灯が切れ掛かっているだけだった。


「なにここ……?」


 席はベンチ型。


 私が座る横長の席とは別にまた向かい側にもそれは存在している。


 その席にはギュウギュウとまではいかないが、隙間無く人間が座らされている。


 男女比率は男八割といったところか。


 なにか良からぬことがあったのか、青褪めた表情で俯いている者が多い。 


 なにかを恐れているのか、ガタガタと震え尋常ならざる量の汗を滴らせている者までいる始末だ。


 一体なんなんだここは。


 排気音が聞こえる辺り、大きな車両に乗せられているのは分かる。


 であれば私達はどこに連れて行かれそうになっているのか。乗客達に共通点めいた要素は見当たらず、お互いに顔を見知っているという感じも無い。


「あ、アンタぁ、怖くないのかい?」


 歯をカチカチと鳴らしながら声を掛けたのは、向かい側に座る無精髭を生やした男だった。


 痩せこけ、窪んでどこか虚ろな目をしている。


 お世辞にも清潔感があるとは言えない様相をしているが、その男が爪を噛みながら私を見る。


「これからどこに連れて行かれるか分かっていないのか?」


 男の貧乏ゆすりが始まる。


 随分と落ち着きが無い。


「そう、それなんだ。ずっと眠っていたから、これがどこに向かっているのか分からないんだよね」


「そうかい。だったら知らなかった方が今しばらくは幸せだったかもなぁ。俺達がこれから連れて行かれるのは監獄だ」


「監獄?」


 その反応に男の欲を満たすものがあったか、何故か嬉しそうに薄笑いを浮かべている。


 ようやく思い出す。


 そうだ、私は港町ミクニでフィードと戦ったんだった。


 その後の記憶は途切れてしまっているが、こうして今どこかに連れて行かれそうになっているということは、どうやら私は負けてしまったようだ。


「随分余裕そうだが、俺達が収監されるのはただの監獄じゃねえんだぞ」


「それはどういう意味?」


「第零監獄」


 男がそれを口にした途端、隅に座っていた男が発狂したように叫び声を上げる。


 自身の声で三半規管を刺激してしまったのか、物凄い力で両耳を押さえながら開く筈のない扉に頭突きをし始めている。


 一見異常な行動ではあるが、それを聞いてしまった以上無理はない。


「ヒヒ…どうやらようやく事の重大さが分かったようだな」


「……えぇ」


 裏世界に存在する法や秩序。


 それを破れば現実世界同様に監獄に閉じ込められて罪を償う日々が始まることとなる。


 その犯した罪はランク付けがされており、それに応じた数字が付与された監獄に収監されることとなっている。


 数字は最も軽い一から始まり、九まで続いているのだがそれには更に上があり、それが男の言う第零監獄となる。


「一度入れば二度と娑婆には出られない。俺達が向かうのはそんな場所だぁ。アイツを見てみろよ」


 そうやって指差すのは、今も一心不乱に扉に頭を打ち付けている男だ。


「アイツはあの通り薬のやり過ぎで幻覚見ちまって、狂ったように町の住民を殺して回ったんだ。あの様子じゃ、しばらく抜け出すことは出来ないな。尤も、我に返ったところで帰る場所も宛ても無いが」


 九でも殺人等含まれ、相当な重罪人が集う場所となっているのだがそこでも収まり切らない常軌を逸した人物がここに連れられるという訳か。


 目の前の男の下は随分滑らかではあるが、なにが可笑しいのかずっと口角を上げ続け、徐々に様子が狂い始めていく。


「ヒャーーッ!!これは愉快!愉快だなぁ!!」


 情報をくれたことに感謝はしているが、ここにいる以上この男も壊れてしまった人間であるということか。


 第零監獄については魔王時代に何度も聞いたことがある名ではあるが、その定義は曖昧であり、どのような存在が収監されているのかまではよく分かっていなかった。


 そこから生きて出られた者は無し。


 残るのは朽ちた白骨のみ。


 私の場合は完全な冤罪になるのだが。それを聞いてくれる余地はあるのだろうか。

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