68話 豹変
相手は三人。
数字上は不利な状態ではあるが、中心のフィードは明らかに戦闘向きでは無い。実質二人として護衛のゴツい男が問題になるが、なんにしても大人しく捕まってやる訳にはいかない以上罷り通るしかない。
「おや?もしや抵抗をなされるおつもりでしょうか?」
「当たり前でしょ。ノーブルレッドについては濡れ衣も甚だしいからね。最大限に抵抗してやるわ」
フィードが不思議そうに首を傾げる。
「そうであるのなら我々に従って、然るべき場所で身の潔白を証明するのが得策かと思いますが?」
「どうだろうね」
これも直感だ。
このままフィードの言う通りにすれば、もう二度と元の世界には戻って来れない気がしてならない。
「悪いけど従えないわ」
フィードが呆れたように溜息を吐き、小さく被りを振った後に護衛の二人に目配せをする。
「殺すなよ」
二人が静かに頷くと一斉に襲い掛かる。
だが、
「舐められたものね」
一つ、二つと拳がそれぞれの腹部や胸部を捉えると、たった一撃で大口を開けて膝を付くこととなった。
苦しみ、呻く男達を侮蔑的な目線で見下ろした後にフィードを目を向ける。
「この程度じゃ相手にならないわ。魔武器を使うまでも無い」
「案外出来るようですね。これは予想外です」
「でしょ。さっさと諦めたら?」
フィードが腕を組んで困った風に唸る。
なんなんだコイツ……。この状況に於いてもまるで動揺の色が見えない。
「まだなにも終わっていませんよ」
フィードがそう言うと、それを皮切りに二人が立ち上がりほぼ同時に大きな拳を振り下ろす。
鈍い音と共に硬い石畳が割れる。
動作全体が遅く、また拳を直撃させると苦しげに呻くが今度は簡単に倒れてくれない。
戦闘はそれから流れは変わらず、私の攻撃に対して名も知らぬ男達が耐え続けるという時間が続く。
「巨漢なだけあってしぶといわね」
フィードを一瞥するも依然として目立った動きは無い。
訝しんでいるせいで目の前への集中力が分散されてしまうものの、それでも私の優勢は変わらない。
「白兎」
純白の短刀を以って一瞬にして二人の男を昏倒させる。
「それは………」
「お、ようやく少し揺らいだわね。心配は要らないわ。あくまで峰打ちよ、殺してはいない」
嘯くように言って刃の付いていない方を指で叩く。
「さて、順当にいけば次はお前ってことになるんだけどどうする?」
「弱りましたね……」
フィードが心底困ったように頭を掻いている。
今更気付いたが目には濃いクマが浮かび、仕草一つ取っても酷く疲れているようだ。
このまま退いてくれるか、と一縷の望みを持っていたがギュッと目を手で覆った後に見せたのは今までとは違った目付きだった。
フィードが険しい表情で舌打ちをして指を鳴らすと、倒れていた二人が消失した。
サラサラと砂が舞うように、現れた粒子はフィードの元に集まる。
「俺が直接手を下すしかないみたいだな」
「ん??」
なんだなんだ。
これまで穏やかで紳士的に見えていたのが、急に荒々しいものに変わってしまった。
如何にも不機嫌そうに乱暴に頭を掻いた後に私を睨み付ける。
「………ッ」
来るか。
纏う雰囲気自体はガラリと変わってしまったものの、魔力自体は劇的に上昇している訳では無い。
どんな攻撃を仕掛けて来るか読めない為、とりあえず防御に集中する。
初撃を見定めてそれから。
そんな悠長なことを考えていたからなのかもしれない。
フィードが一歩踏み出したのを目にした後、私の意識はブラックアウトしてしまった。




