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67話 視線

 港町ミクニ。


 いつ来ても好天に恵まれ、真っ青な空には白い鳥が優雅に飛び回っている。なーんにも考えていないんだろうな、と羨望の眼差しを向けながら石畳の上を歩く。


 建物に阻まれ、その全容は分からないが向こうには大きな輸送船が見える。


 以前訪れた時には北の大陸の戦によって輸送が途絶えていたのだったか。こうして船が来ているということは、それが終わったという認識で合っているのか。


「そろそろ終わっているかな」


 ボンヤリ呟いてこの先にいるバクの作業進捗を思う。


 ノーブルレッド戦で半壊状態となってしまった黒龍の修繕。それが今回ミクニに来た目的になるのだが、実物を見せてバクが呆れに呆れてどデカイ溜息を吐いたのが印象的だった。


「どう?もう終わったぁ?」


 扉を潜り、暢気に声を掛けると机に突っ伏して眠ってしまっているバクの姿があった。


 その傍らには元通りになっている黒龍の姿がある。


「おぉ……」


 しっかり磨き上げられたことで見た目まで新品同様になっていて嘆息した。これまでどれだけ汚れていたかがよく分かる。


 すぐ対応してくれる、ということだったがまさかこうも早く終わるなんて。


 余程疲れているのか、私が傍に来てもバクは寝息を立てるだけでまるっきり起きる気配が無い。


「少し待つか」


 築いてきた関係上、本来ならばちんと引っ叩いて起こすところではあるが、今回ばかりはそうする気になれず、私は短く息を吐いて踵を返す。


 久しぶりにミクニ来たのだからもう少し辺りを散策するか。


 時間には余裕が出来ている。


 のんびりするのも良いだろう。


 そう考えて扉に手を掛けようという時に動きが止まった。


「……………ッ」


 背後にいるバクが殆ど同時に目を覚ましたのが分かる。


「夢瑠」


「分かってる」


 見られている。


 疲労による気のせいなんかではなく、それは明確な視線だ。


 ただ感じるというだけで力量は分からないが、少なくとも味方ということは無さそうだ。


「殺気は……感じないわ」


 身体の向きをそのままゆっくりと後ずさりする。


「って、どうするつもりなんだ?」


「籠城していたってなにも変わらないからね。それに商会に危害を加えられないとも限らない。だったら戦り合うしか無いわ」


 デスクに置かれていた黒龍を手に取る。


「覚醒したって言ってた勇者関連かな?」


「さぁてね。なにせそれ以外にも狙われる要素が有り過ぎて絞り切れないわ」


 自虐的なことを言ったが漂う緊張感は全く緩和されず、どころか得体の知れなさが増した分、一層空気が強張った気がする。


 武器を手に取り、意を決して外に出る。


 直後に攻撃を受けて即死する、ようなことは無くそれ自体は何事も無く行うことが出来た。


 ノーブルレッドのように町の住民達に危害を加えるようなことは無い。


 そこにはただ穏やかな日常が広がっているだけで、私だけが剣呑な状況に陥っている。


「貴方が元、魔王の夢瑠さんということで良かったでしょうか?」


「!!!」


 ふいに声を掛けられて、私は心底驚きながらその方向を見やるとそこに黒服の男達が佇んでいた。


 オールバックで眼鏡を掛けた痩身の男に、それを囲む分厚い身体をした屈強そうな男が二人。


「………………」


 いつからそこにいたのか。


 目立つ身なりをしているというのに、この私が目の前の存在にまるで気付けないだなんて。


「私になんの用?」


「失礼。その前に自己紹介をしなくては。フィードと申します。とある収容施設の職員でございます」


「収容、施設?なんのことを言っているの?」


「おや?まさか自身の行いに対して自覚が無いということでしょうか?」


 フィードが眼鏡のフレームを押し上げる。


 その口振りからして、私の行いのなにかが彼等の琴線に触れてしまったといことになる。


 にしても、コイツはなんなんだ。


 大した魔力も感じさせず身体も折れそうな程に細い。


 だというのに異様な不気味さを漂わせている。


「ノーブルレッドの復活。そう言えばピンと来るでしょうか?」


 戦慄が走る。


 なんでコイツ等がそのことを知っているんだ。


 それに………


「夢瑠さん。貴女にはそのかつての怪物の封印を意図的に解いたという容疑が掛けられています」


「なっ!!ふざけるなッ!あれは頼まれて封印を掛け直しに行っただけだ」


「なるほど。ですが、何故か封印が解けてしまったと?」


「そうよ。あの件については私にもどういうことか分からないのよ。だから私がノーブルレッドの封印を解くだなんてとんでもない」


「ですが、私達が現場を見た際、そこには封印を解く術式が施された札が貼られておりました。あれを貼ったのは夢瑠さんだと思うのですが?」


「確かにそうよ。でもあれはギルド職長を名乗る………」


 私は弁解の言葉を途中で止めた。


「どうされました?」


 そういうことか。


 どうやら私は嵌められたようだ。

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