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66話 それぞれの道へ

 道行く人々の流れを眺めながらのんびりと時を過ごす。


 私は品物を置きつつ商売に勤しむ、体にはしているもののまるで集中出来ていない。


 ここ数日色々なことがあり過ぎて脳がそっちに稼働しているせいで、商売の方に注力することが出来ず、それは道行く人々からも分かってしまうのか殆ど足を止められるようなことは無かった。 


 勇者アキナ。


 アイツは勇者であることに間違いは無い。


 だが今までに現れたそれらの存在とは明らかに毛並みが違う。


 火、水、風、土、雷は世界五代属性になるのだが、アキナの場合はそのどれにも属していない。


 アキナが纏う属性はその枠から外れた闇のものだった。


 私がまだ生まれてもいない古代には退魔の力を持った光属性の勇者なんて存在がいたようだが、闇属性なんて聞いたことがない。


 暗黒騎士。


 かつて闇属性を持って戦う者をそう呼んでいたそうだが、勇者として覚醒するのは前代未聞になるだろう。


 俯いて頭を抱える。


 考えれば考えるだけ全身が泥沼に沈んでいくかのような感覚に陥る。そうしたところで栓無きことなのだが。


 力の差が有り過ぎる。


 今の私では到底太刀打ち出来ない。


 よってアキナが求めた決戦をすっぽかすこととなった。


「頭が痛いわ……」


 そもそも勇者覚醒の切っ掛けとなったノーブルレッドの封印が解けたのがおかしい。


 札に書かれていた術式は未だ不明ではあるが、逆に封印が解く為のそれであった可能性が高い。


 依頼人であるスイというギルド長は騒動の後、姿をくらませてしまっている。もしや魔獣達の襲撃によって命を落としてしまったのかとも考えたが、それらしい死体は見つかっていない。


 食い荒らされて原型を留めていないのなら、それも不思議では無いがタイミング的に今回の首謀者であると考えた方が自然だ。 


 長い間アレクでギルド長を務める信用のある人物が、何故今回のようなことを企むのか。


 一体いつから計画されていたことなのか。


 今となってはなにも分からない。


「よぉ、待たせたな」


 顔を上げれば懐かしさから見慣れたものに変わった人物が立っていた。


「カケル……」


「なんだなんだ辛気臭いな。一仕事終えた後とは思えないぞ。今回の仕事は無事に済んだじゃないか。アキナだってなんとも無い状態で戻って来たことだしよ」


「……………」


 能天気に笑うカケルを他所に私は力無く苦笑いするしかなかった。そんな様子を見てカケルは畏まったように咳払いをする。


「あ〜……結構ヤバい状態だったりするのか?」


「まぁ……ね。まさか今代の勇者覚醒をさせてしまうとは思わなかったわ」


「まさかアイツが勇者、なぁ。真面目過ぎるところはあったけどそれ程とは」


「魔王を倒す、だなんて息巻いているし今後は荒れるわ。裏世界と現実世界を行き来する機会も増えるよ。今より質が悪くなるかもしれない」


 カケルは静かに唸りながら、顎に僅かに伸びた髭を指で撫でる。


 なにも知らない人からすれば、裏世界たら勇者云々について話をされたところで一笑に付されるだけだろう。


 下手をすれば精神病院行きになりかねない。


 だがカケルはかつての災厄の街のことがあり、向こうの世界のことを知っている。


「強大な魔獣との遭遇で折れてくれることを期待していたんだけどね」


「こっちのことは俺の方で少しずつ説得していくわ。少しずつ現実と向き合ってくれれば良いけどな。裏世界は危険が多過ぎるからな。勇者に覚醒……と言ってもどれ程のものかは分からないが強敵を相手に無傷とはいかないだろうし」


「悪いけどそっちは任せるわ。こっち側については今後会うことがあれば説得くらいはしてみる。私が言ったところで意固地になるだけな気もするけどね」


 いっそ捩じ伏せることが出来たなら、どれだけ良かったことだろうか。


 初めこそ楽観的に考えていたカケルも、私の様子を見て徐々に複雑そうな表情を浮かべるようになった。


 今は……なにを言うべきか分からなくなっているといったところか。


「さて、話は済んだことだし私はそろそろ行こうかな」


 重くなった身体を起こし、尻に付いた砂利を叩いて払う。


「夢瑠、ありがとうな」


「……お金を貰っているからね」


 ニヤリと笑みを浮かべて言うと、カケルは年齢相応の落ち着きある笑みを返す。


「まさかまた会えるとは思わなかったよ。こういう時はなんて言った方が良いんだろうな。またな、になるのかね」


「どうだろう。人間は短命だからね。次は何十年後として、カケルは死んじゃってるかもね」


「うるせえよ。そうならないように長生きするわ」


 久しぶりに会った顔ではあるが、それからなにか進展がある訳も無くほぼ同時に背中を向けて各々の道へ歩き出す。


 寂しさは無い。


 人との出会いは単に通り過ぎていくだけものだと考えている。


「次、か……」


 その頃の私を取り巻く環境はどうなっているだろうか。


 珍しくノスタルジックな感情を抱きながら、振り返ること無く帰路につく。

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