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65話 魔獣達の襲撃……その後

 ノーブルレッドがアレクを襲撃してから数日。


 街は生じた被害による多くの悲壮感を漂わせるものかと思っていたが、それに反して毎日のようにお祭り騒ぎという有様となっていた。


「これも勇者誕生の効果かな」


 郊外にあるカフェでコーヒーを啜りながら一人呟く。


 元は落ち着きある店なのだろうが、半ば酔っ払い客が混じっているせいでなんとも騒々しい。


 散歩がてら歩いていてもまだ道には血痕が残されているし、崩壊している建物もあって決して被害自体は軽くない。


 詳細は伺ってはいないが死者だって出ていてもおかしくはない。


 勇者誕生。


 アキナが勇者としての覚醒を果たした後、私が目にしたのは相対していたノーブルレッドの胴体が両断されるところだった。


 消耗していたとはいえその前段階でノーブルレッドを圧倒する様を見せられると、私の目に狂いがあったと認めざるを得なくなってしまう。


 頬杖を突いて深く息を吐く。


 私自身の傷も軽いものではなく、治療は施されたものの未だ刻まれた爪痕は塞がってはいない。


 腕に巻かれた包帯と、刻まれた回復の術式。


 私は勇者とは関係が無く、いわば取り巻きのような扱いではあるがそれでも随分と手厚い待遇をしてくれるものだ。


「?」


 なにやら店の外が一層賑やかしくなっている。


 街の住民からすれば念願叶ったのだから浮かれるのは分かるが、私にとっては望ましい展開では無い。


 なんとも居心地が悪く、外にて出て離れようと決断をする。


 カップに残る温くなってしまったコーヒーを飲み干し、席を立とうとしたところで店の扉が勢い良く開く。


「夢瑠!やっと見つけたわ!」


 アキナが晴れ晴れとした表情を見せる。


 辟易としている私を余所に店内の客、スタッフまでもが色めき立つ。


 送られる賛辞を笑顔で返しながら、アキナは一直線に歩いて私の前に立って席に座るよう促す。


「……なんの用?」


「まぁそう言わないでよ。私はただこれからの話をしに来ただけ」


「これから?」


「そ、これから」


 自身の願望が最高の形で実現したとあってアキナの声色は弾むようで、酷く上機嫌に見える。


 私の心中を分かった上で切り出しているのだから質が悪い。


 それを察しているのかそうで無いのか、いずれにしても意に介さずにこやかに私を見詰める。


「……これからなんて決まっているわ。今すぐにでもこの世界のことを忘れて現実に帰る。私の要求はもうそれ以外に無いわ」


「それは出来ないわ。もし勇者として覚醒していなかったのなら、どこかで見切りを付けていたと思うけど、こうなった以上私には世界を正しい方向に導くという使命があるから」


「使命?」


「そ。その使命というのが私が言うこれからの話になるわ」


 アキナがズイズイと身を乗り出す。


 なにか重たい話をしようとしているのは自明の理だ。そんなのは私だけでなく、周りで様子を眺めている客達でも察せられるようで、賑やかしい店内の雰囲気がピタリと静まってしまう。


 なにを言おうとしているのかは大凡予想が出来ている。


 この雰囲気……それを言わせてしまっても良いのか。


 気付けば私は半ば立ち上がり、咄嗟にアキナの口を塞いでしまおうとしていた。


 だが僅かな逡巡。


 これがいけなかった。


「現魔王の討伐」


 その言葉は店内全員の耳に届き直後、耳をつんざくばかりの歓声が上がる。


「…………ッ」


 それはまさに勇者の宣言だった。


「出来ると思っているの?魔王の力は伊達じゃない。先に倒したノーブルレッドとは比にならないわよ」


「出来る。成し遂げてみせるわ。だけど夢瑠の言う通り、簡単なことでは無いし私一人ではかなり困難になるかもしれない。そこで––––––」


 アキナが無造作に手を伸ばす。


 何事かと身構えたものの、アキナからは殺気のようなものは感じられず事を構える気が無いというのは分かった。


「私と一緒に来て」


「はぁ?」


「現魔王を倒す為に私に力を貸して」


 冗談で言っているようには聞こえない。


 現魔王を倒す為に勇者と前魔王が手を組むなんて正気の沙汰ではないが、野次馬達からすれば前代未聞な展開であり、私が答えを出す前から最高潮の盛り上がりを見せている。


 なんとも断り辛い雰囲気……。


 空気を読んで一旦了承をし、後程断りを入れる。そんな考えが過ったのだがすぐさま被りを振って、甘ったるいそれを振り払う。


「断る。私の要求は変わらないわ」


 どんな反応を見せるか分からなかったが、示されたのはほぼ無反応だった。厳密には僅かに目を見開いたのだが、反応らしいものは殆ど見えなかった。


 それが却って不気味に感じられる。


「このまま主張しても平行線を辿るだけになりそうね」


「そうね。私も譲る気は無いわ」


 無風だった魔力の脈動を感じる。


 ユラユラと漂う勇者にあるまじき禍々しいオーラ。


「だったら無理矢理にでも貫き通すしか無いね」


 向けられる明確な殺気。


 それは即ち私を倒して無理矢理従わせようというものだった。


 勇者アキナ、か。


 だけどコイツは–––––––––………。

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