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60話 死が待つ

 スイから預かった札を貼り直す。


 ただ、それだけの仕事だった筈だ。


 現に今札を貼り、これで仕事は終わり。後は魔獣に気を付けながら帰路につくだけだった。


 なのに、どうして今目の前の岩石が脈動し始めているのか。


「夢瑠!これ、どういうことなの?」


 アキナもその異変に気付き、血相を変えてしまっている。


「分からないわそんなの!」


 なにもかもが分からなくて返し方が乱暴なものになる。アキナ自身も責める気は微塵も無いのだが、今の私にはそれに答えてやる余裕すら無かった。


 漂う魔力の濃度が急激に増していく。


 まるで水の中にいるような息苦しさ。


 どれだけ酸素を吸っても肺がそれを取り込まない。どころか、濃過ぎる魔力で体内が汚染されていくような感覚がある。


 朦朧とする意識。


 微睡みの中にいるようですぐにでも意識がブラックアウトしそうになるが、唇を噛んで無理矢理耐える。


 見た目単なる岩石に過ぎない封印に罅割れが生じる。


 止めないといけないのは分かるのだが、足が動かないし動いたところで出来ることはなにも無い。


 やがて岩石は完全に破壊され、そこから現れたのは長身痩躯の男だった。


 月光を思わせるような美しい銀の髪に、見惚れてしまいそうな程端正な顔立ち。纏う雰囲気は落ち着きある気品を感じさせ、とても魔獣の持つそれとは思えない。


 それだけなのなら良いのだが、その奥底にある凶悪なまでの魔力と、そして放たれる存在感が一瞬足りとも気が抜けないと警鐘を鳴らす。


 だが––––––––––––


「はぁ?」


 ノーブルレッドが解放されて初めに起こした行動、それは……。


 欠伸だった。


 降り掛かる恐怖に耐えながら立ち尽くす私達を尻目に、奴はさも眠たげに大口を開けて隙だらけの様相を見せている。


 まるで私達のことなんて歯牙にも掛けない。


「ちょ、夢–––––––––」


 アキナの制止する声が聞こえる。


 手には黒龍、駆け出し跳躍し身を翻す。


「ハアァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」


 黒龍の重量により発生する遠心力と勢いによる威力を、その無防備な頭部に振り落とす。


「む……?」


 鈍くも強烈な衝撃の後、ノーブルレッドはその身を僅かにグラつかせる。


「––––––––ッ」


 全力の一撃がたったこれだけしか効果が無いのは些かショックではあるが、だからと言って手を止めることは出来ない。


 歯を食い縛り、指が折れそうな程に得物を握り締め関節が外れんばかりに振り回す。


 永い封印の影響でノーブルレッドの意識は完全に覚醒していない。


 だったらこの機を逃す訳にはいかない。


 呼吸を挟む間隔すら惜しい。


 隙だらけの相手には面白いように攻撃は通る。


 その様は爽快感すら覚えなくもないが、肝心要のダメージの程は如何様か読めない。


 並大抵の敵ならとっくに倒せている。


 跡形も残さず粉砕出来ているというのに、ノーブルレッドに関しては未だ流血すらしていない有様だ。


 それでもまだまだ手は止められない。


 与えるダメージが微々たるものであっても積み重ねるしか道は無い。


 だが、


「ふむ?貴様、どこかで会ったことがあったか?」


 形振り構わず振り回していた黒龍の一撃が、細い指一本によって止められてしまった。


 押し込もうとしてもビクともしない!


「さぁね。新手のナンパかよ」


 余裕のフリして笑みを浮かべてみせるが、情けないことにノーブルレッドが肩を僅かに動かしただけで全力で後退してしまった。


 ノーブルレッドは顎に手を当て、ブツブツと何事か呟いている。


 依然として隙はあるが、追撃は出来なさそうだ。


「夢瑠、大丈夫なの?」


「……うるさい。アキナはもう逃げな。敵う相手じゃないわ」


 私以下の力しか持ち得ないアキナではなんの役にも立たない。


 迂闊に死なせる訳にいかない以上、ここは身を呈してでも逃さないと。


 全身が引き裂かれるように痛む。


 魔武器を使った反動が早くも現れてしまっている。


「どうやら、私の封印は解けたようだな。あの忌々しい勇者供はもう死んだか……勿体無い。我が手で殺してやりたかったが」


 いよいよ意識の覚醒が始まる。


 その瞬間は分かったし、決して気を抜いたということはない。


 だが、どういうことなのかいつの間にかノーブルレッドが眼前に立っていた。


 単なる小突きだった。


 それは言うことを聞かない子供に、親が拳骨を落とすような程度の動作だった。


 にも関わらず全身が砕け散るんじゃないかと錯覚した。


「嘘でしょ!」


 たった今の一撃で防御に使った黒龍に夥しい数の罅が入れられてしまった。


「脆いな。その程度か?」


 ノーブルレッドが醜い笑みを浮かべる。


 黒龍をこれ以上使う訳にはいかず引っ込める。


 次なる手を考えなくてはならない。


 それも早急に。


 さもなくば待っているのは純然たる死だ。

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