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58話 ノーブルレッド

 ギルド長スイが苦笑いしながら私の顔色を伺う。


 開店したばかりのカフェ。


 客の入りはまばらで、あまり大きな声で話せば内容が筒抜けになりかねない。流れるBGMは無く、スタッフ達が容器を動かすカチャリ、とした乾いた音が澄んで聞こえる。


「で、なんでギルド長がわざわざ外からやって来た私に直々に仕事の依頼をするのよ?この街には次の勇者を志す若者がたーくさんいるでしょうに」


「連日の戦闘は拝見させていただいております。ですが、どの方々も夢瑠さんより劣っておりまして………」


 まぁ、確かにと顔を顰めながらテーブルに置かれたコーヒーに手を出す。時間を置いたつもりだったが、まだ熱は冷めておらず下を火傷したかもしれない。


「でも今回の依頼内容は単に解けかけている封印の張り直しだ。正直実力云々では無いと思うんだけど?」


「それは勿論そうです。その通りです……」


 どうにも歯切れが悪い。


 私の言い分が正論であることは自明の理だ。


 にも関わらずスイはなにか喉に詰まったような反応を見せている。


 唇を固く結び、俯き、その手は衣服を強く掴んでいるであろう相手を見て、まるで私が悪者になってしまったかのような感覚に陥る。


 随分と息苦しそうだ。


 折角ご指名をいただけた、というのもあってなんとかしてやりたい気持ちはある。


 そんな気持ちが湧くだけで私自身もいつの間にか幾分か優しくなったものだ、と感嘆の息を漏らす。


 それでも安易に手を差し伸べてやるようなことは出来ない。


「夢瑠さんは、この街の若者達のことについてどう感じられているでしょうか?」


 スイがやっと吐き出す言葉は、残念ながら要領を得ないものだった。


「若者達、は次期勇者を目指す連中と見做して回答をするのなら、別にそれ自体は悪いとは思っていないわ。素行が悪いということも無いし、実力はともかく正義感に燃えるというのは人間として良いことなんじゃないかな」


「そこなんですよ」


「は?」


「その燃える正義感が今回の依頼に支障を来たしかねないのです」


「……まさか、功績の為にわざわざ封印を解くとでも?」


 スイは表情を曇らせるだけで回答をしない。


 その反応に愕然としながらも私もそれを一笑に付すことは出来なかった。


 有り得る、のかもしれない。


 ここの若者達は勇者という存在を神格化し過ぎている。盲信しているとさえ考えられる。


「…………ッ。分かったわ。スイの依頼、受けてやるわ」


 スイの顔が急激に晴れる。


「ありがとうございます!是非よろしくお願いいたします!」


 なにを感動しているのか、スイは泣き出さんばかりに目を潤ませている。喜びを目一杯表現しているつもりか、額をぶつけそうなくらい頭を下げる。


「では早速ですがこれを使って下さい」


 見た瞬間ギョッとした。


 帯状の紙には見た目以上に強い魔力が込められている。そしてそれに書かれている夥しい文字。


「封印の術式です。夢瑠さんにお願いしたいのは単に札を貼るだけのことです」


 スイは落ち着きを取り戻し、すっかり仕事モードとなっていたが今度は私の鼓動が煩くなっている。


 恐る恐る札を手に取る。


「凄いわね。こんなの初めて見たわ。ちなみに封印されている魔獣のことを聞いても良い?」


 封印されているだけあって、強力な魔獣であることは容易に想像出来る。


 だが、スイの口から発せられたそれを聞いて戦慄した。


 依頼を受けたこと自体を後悔してしまう程に。


 ノーブルレッド。


 それはかつて存在していた吸血種の魔獣だった。


 吸血種自体が強力だというのに、よりにもよって最強の類が出て来るとは思わなかった。


「私が魔王だった頃、配下達を使って探し回った挙句見つからなかった存在に、今になって出会うことになるなんてね」


 考えただけで目眩がする。


「幸い封印はまだ残っています。ランクはFですが、もし万が一のことがあれば……」


「Sでも足りないくらいだわ」


 スイが言うには封印が解けるまでまだ一月近くあるようだ。


 要するにリスクはそう高くないと言いたいのだろう。


 こんなに恐ろしいFランクの仕事があるとは。


 だが、自分で対処出来るのならそれに越したことはない。なにをするか分からない自称勇者達に任せたら、大変なことになりそうとか心配事が絶えなそうだ。


 スイがおずおずと手を上げる。


「なに?」


「実はもしよろしければお願いしたいことがありまして……」


 まだなにかあったのか。


 先に言っとけよ、と文句の一つでも言いたい気持ちに駆られるがグッと堪えてやる。


「アキナさんを同行していただきたいのです」


 こめかみに血管が浮き上がる感覚がある。


 よりにもよって面倒なコブを付けろ、と。


「自称勇者はリスクがあるのではないの?」


「申し訳ございません。アキナさんは例外なんです」


 アホらし過ぎてこれ以上相手するのが億劫にすらなる。


 だが、考え方によってはそれは非常に有用かもしれないとも捉えられる。


 ほんの少し悩んだ後、私は報酬の上乗せ要求と共に依頼を受けることを改めて伝えることにした。

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