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55話 今代の勇者

「随分と、まぁ疲れている様子だな」


 現実世界、町の居酒屋の一区画にてカケルと向かい合う。


 週末ということもあり、客が大勢いて会話をするのに難儀はするが今抱えている疲労感を誤魔化すには程良い。


「そうね。中々しんどい仕事になっているわ」


 日常の仕事で疲れているであろうカケルは、それでも背筋を伸ばして私に接しようとしている。


 対して私は重くなった身体をやっと動かすように、背中は丸まってしまっている。


 構図としては先生と生徒という風に見えなくもない。


 条例的に大丈夫なのだろうか。


「見えている部分だけで痣が結構あるが、それはまさかウチの生徒が付けたものか?」


「そのまさか、よ。容赦無くしこたま殴られているわ」


「マジかよ……にしても夢瑠にそこまでのダメージを与えるって相当なもんだな」


 現実世界では無く、あくまで裏世界での話。


 だが、そこで行われたのは単なる暴力行為に過ぎないという一面もあり、それについて教師となってしまったカケルは飲み込めていないようだ。


 頭を抱え、なにやら苦しそうに呻いていると店員から注文していた料理が届く。


「自称とは言え、流石勇者を名乗るだけあるわ。日に日に強くなっていて厄介極まりない。どれだけ返り討ちにしてやっても、まるで心が折れる様子が無いし」


 カケルはそうか、とどこか上の空だ。


 眉間に深い皺を刻みながら、出された枝豆をパクパク。


「あ、夢瑠。まさかとは思うが魔武器使ったりしてないよな?」


「使っているわよ?」


 平然と答える。


「ちょ、おま……マジかよ!」


「心配はいらないわ。とりあえず殺さない程度に手加減はしているから。今のところは、ね」


 カケルが顔色悪く、口内に溜まった唾液を飲み込む。


 悩んだり、安堵したり、不安になったりと忙しい奴だ。


「今のところ?」


「言ったでしょ?日に日に強くなっているって……それが出来る余裕が無くなって来ているわ」


「勇者と言っても自称なんだろ?アイツは、アキナはここでは普通の女子なんだぞ。なんだってそんなに強くなるんだ」


 それはカケルの時とは違う理由が起因している。


 強い願望と信念。


 それこそがアキナの力の源となっている。


 であるならばその信念を折ってやることで力は失われていく筈なのだが、まるでそうなる気配が無い。


 倒しても倒しても強くなって目の前に現れる。


「まさかとは思うが裏世界には勇者なる存在がいるのか?」


「いるわよ。厳密には今代にはまだいないみたいだけど」


 勇者。


 それは魔王の対となる存在。


 なろうと思ってなれるものでは無く、選ばれてなるべくしてなる存在。


「私が魔王をしている時にもいたわ。瞬殺してやったけどね。でもその力は相当なもので、当時の四天王クラスは総入れ替えする羽目になったわ」


「じゃあ、それから新たな勇者は生まれていないということか」


「そういうこと。勇者は唯一無二であり、二人として存在することは無い。今は勇者不在状態だから、そろそろかもしれないわね。でも、だからってアキナがそうである可能性は限り無くゼロに近いわ」


 裏世界には現実世界とは比にならない生命が住んでいる。


 そこで願望一つで叶ってしまう程、理というのは甘いものでは無い。


 カケルが大きく息を吐いて背もたれに重心を預ける。


「アキナの心を折る。それ以外になにか方法は無いのか?」


「生徒の夢を壊したくないとか、そんな感じで言っているの?」


 息を漏らし、微笑して聞いてやるとカケルは照れ臭そうに頭を掻く。


 少しでも傷を与えずに済ませたい。


 そんな教師ならではの愛情のようなものを感じ、カケルが本当に大人になったんんだなと嬉しいような寂しいような、複雑な感情が湧いている。


「それ以外の方法ね。あるにはあるよ」


「本当か?」


 前屈みになって話の続きを求められる。


 期待感が膨らむキラキラとした瞳。


 私はそれに対して非情なる答えを出すことになる。


 自称勇者アキナの力の源は本人によるものが大きいが、それだけでは無い。


「今、カケルが私に向けている感情と同じよ」


 カケルが首を傾げて怪訝そうにする。


 アキナの原動力。


 それは次なる勇者を待ち望む街の住人達の希望だ。


「つ、つまり………?」


「簡単なことよ」


 私は一度頷いてニッコリを笑顔を作って見せる。上手く出来ただろうか、カケルの表情が引きつったものに変わってしまっている。


「街の住人達を皆殺しにすれば良い」


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