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52話 悩む。その後の再会

 夜になると町の雰囲気は一層落ち着いたものに変わっていく。


 柔らかな白色灯が辺りを優しく照らす。


 昼間は暗くなっていた飲食店が、夕時を過ぎたところで息を吹き返したかのように賑わい始める。


 だが、都心部にある居酒屋のような場所と違い、飲食にアルコールが混じろうともどこか上品さを失ってはいない。


 幸いにして私の懐事情はかなり余裕が生じている。


 本来だったら偶には贅沢をしたいという欲求が生まれるのだが、今はそんな気にはなれない。


 女子学生達が持ってきた話。


 それは眠ったままで、ずっと目を覚まさなくなってしまった同級生がいるというものだった。


 交通事故に遭ったとか、なにか頭部を強打するようなことがあったかと問うがそれは有り得ないということで、あっさりと否定されることとなった。


 ましてや病を抱えているということも無いそうだ。


 病院に連れて行ったものの、脳や脳波とその他検査をしてもなんの異常も無くどうして目を覚まさないのか、医者でさえも皆目見当が付かない状態となっている。


「そこで私なら、と考えた訳か………」


 低く唸りながらなにも無い夜空を仰ぐ。


 正直気持ちとしては微妙ではある。


 主にお金の問題がネックになりそうだ。これまで商品を複数購入してくれたという義理はあるものの、持ち掛けられた相談に対する価値としてはどうなのだろうか。


 メアが絡んでいる案件では無さそうだ。


 見るだけでも、と考えたが女子学生達の縋るような様子を見せられると着手だけして、引き下がるという手は使わない方が良さそうだ。


 かと言って明らかに只事ではない状態で、迂闊に飛び込むのはリスクが高い。


 もし形骸都市ヴァンデラのようなところだったら……。


 考えただけでゾッとする。


「夢瑠?」


 ふいに声を掛けられる。


 誰だ、と眉を顰めながら視線を平面に戻すとそこに立っていたのは見知らぬ男性だった。


 年齢は四十前後と言ったところか。


 優しく柔和な笑みを浮かべ、私を見詰めている。何者であるかは分からないが、見せる表情から穏やかな人物であることは分かる。


 だが、どこか懐古心をくすぐるような気の強さを含めた瞳。


 どこかで会っていたような–––––––––…………。


「や、そうだよな。俺のことが分かる筈がないよな」


 男性は気恥ずかしそうに苦笑いしながら頭を掻く。


「俺だよ夢瑠。カケルって言えば思い出せるかな?」


「あ……」


 そうだ。


 かつて一緒に仕事をした少年のことを急速で思い出していく。


「カケルってあの引ったくりをしようとしていたあの少年だよね?」


 思い出した後の第一声がそれか、と我ながら呆れてしまうが仕方が無い。それだけ私と彼の出会いというのは印象的だった。


「それはもう言わないでくれよ。あの時からかなり成長しているんだから、それを思い出すとしんどくなる」


「本当に成長したわね。随分と大人っぽくなっちゃって……まぁ老けたとも言うかな」


「うるせえよ。そう言う夢瑠の方は全然変わってないな。まさにあの時の姿のままじゃないか」


「ま、私とカケルでは寿命というものが違うのよ。って、それよりカケルは今なにをしているの?」


 カケルは綺麗なスーツを身に纏っている。


 私の記憶の中にいるカケルの最後は学生服姿であっただけに、それは意外なものに思えた。


「今は一応教師をしているんだ。この辺りの高校で結構進学校なんだぜ」


 カケルがどうだ、と言わんばかりに胸を張って満面の笑みを見せる。自信ありげにドヤるだけあって、確かに素晴らしい職に就いているようだ。


 これには嘆息するしかない。


「カケルが……ねぇ。イメージ湧かないなぁ。そうか、あの喧嘩してボロボロになっていたカケルが……感慨深いわ」


「んなんでだよ!あれから心を入れ替えて頑張ったんだ。いつかどこかでその姿を見せられたら、と考えていたがようやく叶ったな」


 私の方はかなり薄れてしまっていたが、カケルの中では今も当時の記憶は色濃く残ってくれているようだ。


 驚くべきことに当時カケルを苦しめた鬼龍達も今は真っ当な仕事をしているそうだ。


 取り巻き達はともかく、鬼龍については道を外れているものかと思っていたが人はどこで変わるか分からないものだ。


「今は結構仲良くしててな。結構助けて貰ってるよ。アイツ、あんな顔してボランティアとかかなり注力しているんだって」


「マジか……」


 完全に生まれ変わったと言っても良いくらいだ。


「と、まぁ思い出話の類は一旦ここまでにしておこうか。カケル、こうして現れたからにはなにかあるんじゃないの?」


「お見通しか。会いたいと思っていたのは嘘じゃないが、夢瑠の言う通りここに来たのは偶然ではないよ。すまないが、また夢瑠に力を貸して欲しいんだ」


 今までとは違って真剣な表情だった。


 教師という職で揉まれてきたこともあってか、年相応以上のオーラを感じる。


「ん、なにかな?」


「生徒を一人、助けて欲しい」


 なるほど。


 そう来たか。


 先日からの女子学生達といい、カケルといいまるで仕組まれたように話が重なる。


 行け。


 見えないなにかが強烈にそう主張しているようにしか聞こえない。

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