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51話 女子学生達が運ぶ不穏

 今日も今日とてのんびりとした時間を過ごしている。


 なんの波風も立たない平穏な日々だ。


 傍にある枝垂れ桜には花びらは無く、青々とした葉っぱが元気に凪いでいる。今の私と比べれば、植物達の方が余程仕事をしているよう気さえしてくる。


 観光地なだけあって訪問客は多く、常に気は抜けない状態が続くもののそれが売り上げに繋がるかと問われればそんなこともない。


 若い学生と思しき男女がキャッキャとハシャギながら商品を物色してくれるものの、そこは若者らしく懐事情が怪しいのか購入にまで至らない。


 金があるのに興味が無い大人達と、興味は有るのに金が無い若者達。


 なんということだ。


 川の向こう側で集団で歩いているのは修学旅行生かなにかだろうか、見知らぬ土地にやって来ているだろうに、目を輝かせるどころか魚のようにくぐもってしまっている。


「遊園地や都会の街とは程遠いからね。そりゃ退屈もするか」


 他人事だと頭の後ろで手を組みながら漫然とそんな光景を眺める。


「そういえば……」


 数日前に商品を買って行った女子学生達はどうしただろうか。テンションが百八十度ガラリと変わってしまったことで、妙に印象に残る子達だった。


 退屈の余り物思いに耽ってしまう。


 そんな気の緩みがあったから、すぐ近くにまで迫る慌ただしい足音にまるで気付けなかった。


「あのお姉さん!!」


「––––––––––––ッ!!!」


 完全に不意を突かれ、そこからこのフルボリュームな音声をぶつけられると思わず心臓が飛び出てしまいそうになった。


「な、なにかな?ってあれ?この間の……」


 そこにいたのは先日の女子学生三人だった。


 興奮しているのか息が荒く、掴み掛からんばかりの勢いで私の方としてはたじろいでしまう。


「そうです!あの商品凄かったです!」


「それはなによりで。でも購入数は一つだったけど、他の二人は良かったの?」


 評判は上々。


 であるならば次なる商品を売りたい。


 そう考えるのが商人というものだ。


「そ、そうですね。今度は私達も商品を買いたいって思ってます」


 少し引き気味ではあるが、どうやら購入意思は持ってくれているようだ。よしよし、と早くも今晩の皮算用をしていると、


「今回は三人で十個買うよ」


「十!それはありがとう……?」


 なんだか素直に喜んで良いのか分からない感じになった。


「では夢の内容についてはどうしようか?」


「お任せで大丈夫です。あ、でもあまり怖いやつじゃなくて楽しいのが良いです」


 内容を任せてくれるのはありがたい。


 金持ちが相手だったらここぞとばかりに高価な品を出して、一気に利益を得ようというところだったが、今回の商売相手はそれには乏しい学生だ。


 あまり無茶な品を出すべきではない。


「こんな感じでどうかな?」


 空を飛んだり、現実世界には無い遊園地や綺麗な自然がある場所に辿り着ける夢が多く、簡潔にその説明を施すと女子学生達は相談こそしたもののさして悩まずに購入の決断をしてくれた。


「はい、これで丁度ですね」


「ん、確かに」


 失礼ながら支払いの心配はあったが、特に出し渋るとか商品選定に変更は無く取引自体は簡単に終わった。


 だが違和感がある。


 商品自体を求めてくれるのは嬉しいが、今回の場合になるとそうでは無いような気がする。


 支払いは個人が、というより三人で出し合うようだった。


 これをどう捉えるか……。


「あの、こういう商品ってどうやって作っているんですか?」


「それは企業秘密かな。でも、怪しい薬剤とか中毒性とかは一切無いから安心して。その人が見たい夢、行きたい世界に連れて行くのがこの夢魂ゆめだまだからさ」


 別に嘘は吐いていない。


 ただ、私は人の夢に入り込んでそれを具現化していると話したところで信じられる筈が無い。


 余計に疑われて大事な客を失うことに繋がりかねない。


 女子学生達はその後特に会話を交わすことも無く、また足早に来た道を戻るようにして行ってしまう。


「気に入って貰えたかな」


 離れたところで思い出したように足を止め、こちらを向いたかと思えば私に手を振っているようだ。


「……………」


 その行為自体に、いつかの懐かしさを覚えて薄く笑みを浮かべてしまう。


 気恥ずかしさがあった。


 一瞬の躊躇いの後、私も釣られるようにそれを返す。


 いつまでこの町にいるかは分からないが、その間だけでも良い関係性を築けたらと考える。


 それから数日後彼女達は憔悴した姿で目の前に現れることとなる。


 なにやら不穏な気配を漂わせて………。

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