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50話 新たな町。始まりの予感

 やけに空気に湿り気が含まれている日だった。


 午前中の清々しい晴れ間は何処へやら。


 お昼時を跨いだ現在、季節どころか世界線自体が変わったのではないかと思ってしまう程、漂う空気感が不快なものへと変わってしまった。


 見上げれば、まるで戦艦のような雲の大群が空の大半を覆い尽くしてしまっている。


「こうなると気分も落ち込むんだよね」


 一人呟いて俯くと、視線の先には売れないまま鎮座し続けている商品達がいる。並んでいるのは大なり小なり差はあれど、一律形状は球体となっている。


 色はそれぞれ違っており、単色のものもあれば複数の色が混ざり合ったものもある。


 その物珍しさ、見栄えや場所の人通りからして興味は持って貰えると踏んではいたが、予想に反して商売は難航してしまっている。


 とある観光地。


 道行く人々は観光客が多い。


 背後にある小さな川では舟がゆったりと流れ、そこにも多くの観光客が座ってのんびりとした時間を過ごしている。


 それだけ余裕があるのであれば、せめて手に取ってくれるだけでもして欲しいものだと、内心恨み節のようなことを吐き出す。


「あっ!!なにこれ!すごいすごーい!」


 ムムム、と商品と睨めっこをしていると突如視界の外から嬌声が耳に届く。なんだ、と他人事のように首をもたげるとそこにはなんと制服を着た女子学生数人がいたのだった。


「あの、この商品触っても良いですか?」


「写真とか撮っても良いですか?」


「SNSに投稿しても良いですか?」


 そうやって興味あり気に都度聞いてくれるのは、今時の若者にしては律儀だなと感心した。


 そうそう。


 こういう反応を待っていたのだよ。


 平静を装いながら接客しつつも、内心では大はしゃぎだ。良くも悪くも彼女達の高い声は良く通り、周囲の観光客達の目や興味を引いてくれるかもしれない。


「あの、これってパワーストーンかなにかなんですか?」


 商品自体にも興味を持ってくれた。


 爛々と綺麗な眼差しだ。


 期待値は高まったと言いたいところではあるが、残念ながら彼女達の予想からは外れた回答をしなくてはならない。


「いえ、それには夢が詰まっているの」


「…………え?」


 彼女達の表情は一瞬にして真顔に変わってしまう。


 当然の反応だ。


 胡散臭さを感じたが、三人がお互いの顔を見合わせるようになった。深入りしない方が良い、気を遣いながら離れようという意思表示かな。


「それは本当なんですか?」


 だが予想に反した態度が返って来た。


 神妙な面持ち。


 それは困惑から湧いているものかと思っていたが、どうやら違うようだ。


「それを簡単に証明してみようか」


 取り出したのはいつもの試供品だ。


 小さなビー玉サイズのそれを手渡し、目を閉じて集中するように伝える。


 そしてその十数秒後には、私の言ったことを否応無しに信じることとなる。


 今まさに見せたのは誰でもあるであろう階段から落ちる短い夢だ。


 彼女達は揃って同じ映像を見たことで驚きを隠せず、なにやらボソボソと話しを始めてしまう。


 最初のハイテンションは消え去ってしまっている。


 あまりに真剣に考えているものだから、私もなにがあったのか気になってしまう。


「なにか、あったんですか?」


「いえ……」


 被りを振る。


 歯切れは悪く、顔色だって良くはない。


「あの、この中で一番安い商品ってどれですか?」


 どうやらお買い上げいただけるようだ。


 嬉しいことではあるが、なにか引っ掛かる感じがしてしまう。詳細が分からない以上、一人考えたところで栓無きことなのだが。


 まるでスイッチでも切り替わったかのようだ。


 とてもじゃないが若い彼女達が見せるような様子ではない。


 まさか、と目を凝らすがいつかのような黒い靄は見えない。


「あの………」


「ん?」


「い、いえ……やっぱりなんにも無いです」


 ここで詳細を伺えば、それを掘り起こすことは出来るかもしれない。だが、彼女達の弱みに付け込むようで、そうするのは憚られてしまった。


 彼女達は商品の一つを買うと、来た道とは逆方向へと足早に行ってしまった。


「なんだなんだ……?」


 横柄な感じでも無いし、ましてや隠れて盗みをしたということでも無い。だというのにあの不自然な態度は一体……。


 やがて空から降る雨粒が肌に触れる。


「ここまでかな」


 それは私にとって終業のベルと同義となった。


 そそくさと荷物をまとめて、雨が降りしきる中必死に駆けて今夜のホテルに向かう。


 彼女達が商品を買ってくれたおかげで、今夜の食事は少し贅沢出来そうだと考えると、不愉快な悪天候すらも許してあげられそうな気分になった。

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