49話 メアの制限
ケイが目を閉じ、差し出した私の腕を触診していく。時折得心がいったかのように頷いてはいるものの、その表情に揺らぎが無い辺り今回はなんの問題も生じていないのか。
「うん、悪くないね。むしろ状態は良いよ」
予想通りの結果ではあったが、ともあれ安堵する。
ケイは触診を続けながら口を動かす。
「で、どうだった?」
「凄かったわ。普段の何割増しだってくらいの威力だった。今度は魔力回路ではなくて魔武器自体が傷むかと思えたくらいにね」
「そう、それは良かった。今回の一撃は実力以上の威力を引き出した形になるけど、今後は徐々にフラットな状態に戻っていくよ。それでもついこの間までのそれとは比べ物にはならないけどね」
ケイの調律により狂った魔力回路が修正され、まるで筋肉が超回復するかのように一時的に魔武器との適応率を跳ね上げた。
ならば、今後都度ケイに調律をして貰えれば恒久的にその威力を維持出来るかと問えば、実際はそう都合良くはいかないらしい。
「今回のように魔力回路が焼き切れる直前まで追い込まないと、そこまでの効果は期待出来ないよ。私が行うのはあくまで基準値にまで整備するだけだからね」
とのこと。
基準値以上の力を出すというのも、ケイから言わせればあまりよろしくない状態であるそうだ。
「魔王シリーズと呼ばれるだけあって、夢瑠の魔武器はランクSだしそう壊れないけど今度は身体が持たなくなるよ」
過ぎたるは及ばざるが如し、とは少し違うかもしれないが今の弱体化した私にはただでさえ手に余る魔武器を使っているのだから、細かい部分もメンテしていかないと。
「本音を言うのであれば、今の夢瑠にその魔武器は合ってないから使って欲しくないけどね」
「それは分かってるわ。でも、私にはこれしか無いのよ」
どこでそうなったか。
魔王としての資質を持っているが故に、使える武器を選ぶ傾向が強い。
極少数選ばれた者しか使えない魔武器なら差し支え無いのに、そこらの店にある武具は駄目だというケースばかりだ。
「ところで、ケイのところにメアって来た?」
聞いておきたいことがあった。
それは屍龍の出処だ。
漂う霊魂が教えてくれたのは、龍に掛けられた呪いだった。朽ちた際にそうなった自然なものでなく、何者かが行なった人為的に作られたというのなら、わざわざそんなことをする人物はそう浮かばない。
「……来てないね。当時は接点こそあったけど精々その程度だったからさ。こうして離別した後に顔を合わせるような間柄では無いよ」
言葉通りに受け取りたいが、そこは信用ならない。
なにせケイの言うことだ。
「そう。だったら良いわ」
仮に嘘偽っていたとしても現段階ではなにも変わらない。それに、一度そう言ったケイの発言を覆させるのは難しい。
「メアの仕業かはともかくとして、アイツならやりかねないことではあるよね。ねぇ、ところで聞きたいんだけどさ、夢瑠はメアがなにをしようとしていると考えているの?」
「なにって………そんなの私を殺そうとしているに決まっているわ」
ケイは一度は頷く。
だが、その回答には満足していないようだ。
「殺そうと思えば殺せる程弱体化した夢瑠に対して、すぐにそうしない理由はなんだろうね?」
それは考えたことがある。
災厄の街の時もそうだった。
消耗していた私の前に現れ、背後に控えさせたかつての配下達。いわば歴戦の戦士を並べさせておいてまで、私を泳がせたのはどうしてか。
「大方、私をジワジワ苦しめてからとかそんな下らない理由でしょ」
考えるだけ無駄だ。
唾棄するように言うと、またケイは頷く。
「それもあるかもしれないね。だけど、夢瑠だって分かっているでしょ?掛けられた呪いが完全なものでは無いということを」
「まぁ、ね」
「夢瑠を縛る見えない鎖。メアがじっくり、のんびりとなんて言っているといずれそれは外れてしまうわ。そうなるとどうなるか……メアだって分かっているはず」
確かにその通りだ。
私に掛けられた呪いは単体によるものでは無く、幾重にも折り重なったものとなっている。
一度に全て外れはしないが、時間が経過し劣化したものから外れていく。
「もしや今殺せない理由があるのかもしれないね?」
人を呪わば穴二つ。
絶大な力を持っていた私を封じるくらいだ。メア側になにかしらの制限が掛かっていても不思議は無い。
「メアの真意は更にその向こうにある。そんな気がしているんだよね」
ケイがふいに窓の向こう側に目をやる。
釣られて視線を動かすが、そこにはなにもない白紙が敷かれたのかと錯覚するような景色があるだけだった。
「向こうって?」
「さぁ、なんだろうね?」




