46話 決着。背後で蠢く者
屍龍の本領。
口元に魔力が渦巻きながら幾重にも折り重なっていく。
それはやがて何倍にもなり、今にも破裂しそうな程にまで達している。こんなものが放たれればどうなってしまうかは容易に想像出来る。
最悪そこになにも無ければ良いのだが、もし運悪くケイや観光客達がいる場所に向かうこととなれば大惨事だ。
全く意識していなかった訳では無いが、ここに来るまで変わり映えのしない景色が続いていたせいで、すっかり方向感覚は失ってしまっている。
回避の選択肢が消去されたが、だったらそれを受け止められるかと問われればかなり怪しい。
龍の息吹は強力なスキルであり、過去に大きな街をたった一撃で灰燼と化したという逸話も残っている。
「これなら一度でも見ておくんだったわ」
当時の私でも龍と戦うのは骨が折れた。
下手な手加減をしようものなら返り討ちに遭う可能性があった。
故に使われる前に倒していたのだが、時を経てそれが仇になるとは。
「だったら迎え撃つしか無いわね」
黒龍の次に選択したのは銀獅子。
弾倉に込められているのは全て爆炎弾であり、ストックもかなり少なくなっているが不思議と押し負ける気がしない。
ケイの調律のおかげということにしておこうか。
仄かに感じられる魔力の高ぶり。
直後に放たれる龍の息吹。
死の波動が迫る中、私は酷く冷静に銃口を向ける。
引き金を引いて射出されたのは確かに爆炎弾だった。
だが、その渦巻く炎と放たれる熱波はこれまでとは全く比べ物にならない。その反動も凄まじく、咄嗟に身を翻さなければ肩が外れていたかもしれない。
二つの大きな力はほんの僅か拮抗状態を見せた後、爆炎が龍の息吹を貫いて散り散りにさせる。
そして勢いは衰えること無く爆炎は標的を抱擁する。
屍龍が発する断末魔の叫び。それは紛れも無く苦しみから来るものだが、炎の力は屍龍の再生力を優に上回りその身を焦がしていく。
憐れみの念を覚える。
龍としての力が衰え、屍となってその身を腐らせ苦しみながらも誇りは失われなかった。
その末路がこれだ。
天を仰ぎ、時折口を開閉している。
それは存在すら曖昧な神のよう存在に憎しみをぶつけるようだった。私自身もかつて似た感情を抱いていただけに、おかしなことに共感すらしてしまった。
「!」
屍龍から黒く禍々しいオーラが放たれる。
「嘘でしょ……」
それは間違い無く今際の際に見せる進化の兆しだった。生への執着か、絶対的な存在への返り咲きへの想いなのか。
屍龍はその存在自体を変貌させようとしている。
だが……。
無情だった。
屍龍の進化は間に合わなかった。
今も衰えない炎は屍龍の身を焼き尽くして灰に変えてしまった。
憎しみの黒いオーラは途切れ、屍龍は泥濘んだ地面に横たわって微動だにしなくなった。
「終わったか」
安堵しようやく全身の力が抜ける。
とりあえず仕事を終えることが出来たのは良かったが、疑問なのがどうしてここに屍龍が現れたのかということだ。
不浄の地にいる魔獣の中では別格に強く、これまで目撃例は一切無かった。今になって発見されたとか、偶然そこに降り立ったと考えても良いが確率としてかなり低いものになる。
私がここに来ることを予見して合わせた、とするのは流石に無理筋か。
「あ」
雨が降る。
それは屍龍を優しく包んで癒していくようだ。
生気を感じさせない冷たい場所だが、初めて温かみを感じた気がする。
「さて、戻るか」
踵を返すとそこに見知らぬ女性が立っていた。
いや、足が無く立っていたと表現するのは若干誤りがあるか。ここに住まう魔獣でも無い霊的な存在なのだろうが、それが私になんの用なのだろうか。
「あの……」
伏し目がちにおずおずと女性は話を始め、その直後私は驚きで目を見開くこととなる。




