44話 視える者からの依頼
どこを見渡しても朽ち果てた景色ばかりが広がっている。
申し訳程度に伸びる樹木はいずれも石灰化しており、白く染まるのみで緑の健やかな葉は一枚たりとも付いていない。
木々のか細い枝に止まるのはギョロッとした大きな目をした不気味な鳥だ。
中にはアンデット系が混じっているのか、肉が溶け落ちて中の骨が丸見えになってしまっている個体もいる。
「辛気臭いわ」
雨でも降ったのか不自然なくらい足元は泥濘んでいる。
傍にある区画からはガスと汚泥がブクブクと吹き出している。
ゲッゲッと濁った鳴き声はどこから発せられものなのか。
慎重に歩いていると前方に女性の後ろ姿が見える。どこかの観光客かなにかか、と怪訝に思いながも足は止めない。
不気味な雰囲気ではあるがここ「不浄なる地」には強力な魔獣はおらず、こうして観光客を見掛けることも珍しくはない。
事実ここに来るまでも何人も目にして来た。
街として繁栄している訳でなく、豊かな自然が広がっているということも無い。そんな場所に、観光客達はなにを求めてやって来るか。
心霊スポット。
俗的な言い方をすればそれが目的となる。
アンデッド系の魔獣がいようとも力が弱いだけに、低ランクの聖水であっても倒すことは出来る。
そしてもう一つはこの先に家を構える変わり者にある。
「さて……」
距離は縮まりいよいよ抜かしてしまおうという時に違和感に気付く。
「アァァァァァァァッ!!!」
「……………」
やはり。
どこぞの霊魂が彷徨って形作られていただけだった。
これはまだ人の体を成しており、アンデッドに変わる前段階となる。故にこうして叫んで己が存在を示し、時には生者に救いを求める行為を取る。
「悪いわね。生憎聖水は持っていないんだ。だからこれで勘弁して」
「あ?」
固めた拳を小さく振り抜くと女性霊魂の顔面にクリーンヒットした。
それからの反撃は無く、霊魂はただ霧散するだけとなった。
なんとも嫌な感じだ。
浄化の力は持っていないから出来ることは無い。こうして物理攻撃にしたって殆ど通らない。
今のはただ拳圧で吹き飛ばしただけに過ぎない。
こんな時に実力行使にしか出られないのが、かつての自分を思い出すようで嫌だった。
己の無力さを痛感させられる。
それがこの場所だった。
「ともあれ目的には着いたっと」
そこには小さな避難小屋のような家屋が建てられている。屋根に付けられた煙突からはモクモクと白煙が立ち上っている。
「おや、珍しい顔がやって来たね」
扉の取っ手に手を掛けようという時、まるで先手を取るかのように声が届いた。
「……相変わらずね」
扉を開けて顔を合わせると髪の長い女が薄っすらと笑みを浮かべる。
通称「視える者」
この女、ケイは全てを見通す目を持っていると言われている。
「おかげさまで商売は繁盛しまくってますよ」
この不浄なる地に観光客が訪れるもう一つの理由は、ケイの能力による占い目当てとなる。
「実際はどこまで視えているの?」
「どうでしょうね〜」
ケイは嘯くように笑うだけだった。
飄々としていて掴みどころが無い。
未来を見通すと言うのは決して嘘では無いのだろうが、このケイという女には問題が一つある。
「ま、それらしいことを言っていれば信じて貰えるレベルまで持って来れましたよ」
「えぇ、適当なのかよ」
「まぁ、ね。一日何人の予約が入ると思っているんですかって話です。その全てに能力使ってたらあっという間にバテますよ」
自分が悪いくせに、まるで来客に非があると言わんばかりだ。
ケイの問題。
それは不真面目というところだ。
「さすが当時の私に嘘をこくだけあるわ……」
「あれは勇気が要りましたね」
ケイは愉快そうにまた笑う。
当時誰もが恐れていた私に対して適当なことを抜かすとはとんでもないことだ。私もまさか、とも考えていなかっただけに見事に騙されてしまった。
「おかげであの時はとんでもない損害を出しそうになったわ」
「あの後追っ手から逃げる為に能力フル稼働しましたよ」
「要らんことするからよ」
結局ケイは逃げ果せることが出来て、その後私とは連絡を取っていなかったのだが魔王の立場を終われたことでシラッと接点と取ろうとして来たのだった。
「そして今に至る、と。それで夢瑠さん。今日は魔力回路の調律でしたよね?」
「そうね。早速だけどお願いしたいわ」
「分かりました。ですが一つお願いがあるのですがよろしいでしょうか?」
コイツ……。
ここに来てそう言われて、私が断れないことを知っていて言ってやがる。
「勿論今度は真剣に仕事をしますよ。お願いさえ叶えてくれれば代金もタダにしましょう。如何ですか?」
「……良いわ。言うだけ言ってみて」
ケイがなにかしらの駆け引きを持ち掛けること自体はさして驚かない。
室内見渡しても稼ぎの割に質素な暮らしをしており豪奢な物はおろか、そもそも物自体が無い。
提示されるお願いとやらも大したことは無いだろうと、私はそう高を括っていた。
だが、次に発せられる言葉には心底驚かされることとなる。
「この地に現れた不浄の龍を倒していただきたいのです」




