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43話 狂った魔力回路。次なる目的地へ

 湿った視線が向けられる。


 それは目の前に座るバクによるものだった。


「それで、おめおめと逃げ帰って来たと?」


「う……」


 返す言葉が無かった。


 今すぐにでもリベンジしたいところではあるが、そうしたって結果はまるで変わらない。


「まぁ今の状態では無理出来ないからそれは良いとして、そもそもよく行く気になったなって話よ」


 バクは私の手首に手を添えて目を閉じる。


 私は抵抗することなく、力を抜いてバクに身を委ねる。


 バクは時折唇を小さく動かしてなにやらつぶやいているが、内容は聞き取れない。同時に頷き、唸ることもあってそれだけで状態が芳しくないのが伝わってしまう。


「良くないな。正直私の手には余るレベルになる」


「そりゃ、あれだけ魔弾をぶっ放して挙句魔王化に黒龍まで使ったからね。覚悟はしていたけど……」


「魔力回路がボロボロだし歪みが生じているわ。向こうで魔武器を使わずに退いたのは正解と言う他無い」


 私が持つ魔王シリーズとも呼ばれる銀獅子や黒龍。


 それは私が魔王として君臨していた際に使っていた武器であり、今の力が落ちた状態で使うには適切ではない。


「適合率が一割未満だからね。そんな状態で無理矢理使っているのだから、こうなるのは当然か」


「焼き切れなかっただけマシとしないいけないね」


 バクはそう言いつつ握っていた手を離す。


 浮かべる表情は険しい。


「悪いけど、私程度の力ではこれ以上の調律は出来そうにないわ」


「……マジ?」


「大マジ。所詮私は少し齧った程度の力しか無いからさ。今回のような状態だと専門の調律士に頼まないと」


 なんとなく予想は出来ていたが、いざ事実を突き付けられると溜息しか出ない。


 魔力回路を持つということは特別なことではない。なんだったら裏世界に生きる者全てに存在する。


「と言っても夢瑠の魔力回路の調律が出来る調律士なんてそう居ないけどね。なにせ腐っても元魔王だ。結構特殊な魔力回路をしているし」


 一言余計なんだよ、と突っ込みつつも概ね同意だ。


「勿論このまま放っておいても自然回復はするけどね。だけど、災厄の街でのことが露見していたとすれば、火憐の言う通り異端狩りが動き出す可能性がある。それにメアが従えるかつての配下達。そして………」


「なによ?」


「いや、なんでもない。それよりも、夢瑠を取り巻く状況というのは今後一層厳しくなる可能性がある。それだけにいざという時に魔武器が使えないんじゃ絶望的だよ」


 その言葉を飲み込む。


 そして顎に手を当てて一応思案する。


 バクはそれを黙って見守っていたが、すぐに被りを振ることで回答を示すこととなるだけだった。


「答えは一択ね」


 バクの言うことに対する対案は無いということだ。


「行くしか、ないか」


 諦めて観念することにした。


 おかげで次なる目的地が決まってしまった。


「んで、話は変わるんだけどバクは形骸都市ヴァンデラって知ってる?」


「んや、全然。でも、聞いたところそこまで魅力は感じないね。扉の向こう側は気になるけど、それを守る鎧の戦士とか恐ろし過ぎでしょ」


 バクはサバサバした様子で手を振る。


 情報について得られるとは思っていなかったが、鍵を渡した当人についても同様だろうしあっという間に手詰まりとなってしまった。


「情報についてはこれまたそれに長けた奴がいるじゃない」


「まぁね。ただ、アイツ世界中飛び回ってて中々捕まらないんだよね。魔王じゃなくなって、当時の契約が切れて今の連絡先も知らないし」 


 彼なら確実にヴァンデラの情報も持っているのだろうが、捕まらないのでは仕方が無い。


「でも今後の夢瑠次第によっては向こうから現れることになるかもしれないよ?」


「どういうこと?」


 バクの言っていることが分からず、片眉を下げて首を傾げていると逆に呆れるように肩を竦められてしまった。


「力を失っていた元魔王が復活の片鱗を見せたんだ。興味を持つ者が現れたってなんら不思議は無いよ」


 良くも悪くも。


 バクは最後にそう伝える。


「偶発的なものに過ぎないんだけどね」


 それでも注目度はこれまでとは格段に変わる。


「今は良い宣伝になったと考えよう。暴虐の限りを尽くした元魔王が、すっかり丸くなった姿を広められればまた新しい縁が出来るかもしれないし」


 商人らしい考え方だ。


 バクにとってもその展開は好ましいことになるだろう。


「ところで、その件の情報屋には世界樹のことを聞いたことがないの?」


「………………」


 答えに窮してしまった。


 バクならばあっさりと聞いてしまっていることだろう。


 だが、私はそうではない。


 そこで受ける回答によって私の行く先が変わってしまうから。


 それがなにより怖い。


 沈黙と表情で察してくれたバクが話を打ち切る。


「じゃ、用は済んだし私はもう行くわ」


 席から立ち上がり、その場を後にしようとする私をバクが呼び止める。


「なに?」


 バクはニッコリ笑みを浮かべて手を差し出す。


「精算は?」


「あ……」


 忘れていた。

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