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42話 扉を守る戦士

 目の前に巨大な観音扉が見える。


 高層ビルを思わせるそれは何気無く歩いていて突如現れた。


 巨大と言っても過言では無いくらいで、今までそれを視認出来なかったのが不思議でならない。


「……………」


 数歩後退するとフッとその姿は見えなくなってしまった。


 再度歩を進めるとまた出現する辺り、視認の条件は扉までの距離にあるようだ。低ランクではあるが魔道具の干渉が施されているということだ。


 扉の先にはなにがあるのか。


 そもそも扉は開くのか、なにかしらの条件があるのか。


 眉を顰めながら更に近付いたところでまた姿を現した存在が一つ。


 距離にして約百メートル。


 今見えているのは初め岩かと思ったが、やがてそれは大層な鎧を纏った者が項垂れるように座り込んでいる姿だと気付く。


 息を飲む。


 私のことを認識しているのかどうかは定かではないが、ここから伝わる緊張感は並々ならないものがある。


 更に近付く。


 まだ動きは無い。


 単なる置物なのか……。


 ダルマさんが転んだ、じゃあるまいしなにをこう慎重に動いているのかと考えてしまう。


 流れる汗が凍り付くように冷たい。


 更に近付いたところで座り込んでいた鎧が動き出しゆっくりと立ち上がる。


「首が無い……」


 立ち上がる鎧の戦士には本来あるべきものが存在していなかった。


 どこかにそれがあって私を見ているのか、はたまた感じる気配だけで動いているのか。


 鎧の戦士は腰を落として居合の姿勢を取る。


 その手は空手であり、なにか得物が握られているようには見えない。だが、それがブラフの類では無いのは明らかだ。


 まだ一定の距離があるというところで鎧の戦士の手がピクリと動く。


 距離にしてまだ十数メートル。


「まさか届くのか」


 口内に溜まっていた唾液を飲み込む。


 膠着状態が続く。


 来れるものなら来てみろ。


 波打って駆け抜ける空気からそう伝わって来ているようだ。


 歯が軋む。


「舐められたものね。良いわ、お望み通り踏み込んでやるわ」


 敢えて挑発に乗って大きく踏み込んで一気に間合いを詰める。だが、その足が接地しようという時だった。


 急激な悪寒に襲われる。


 目に見えない直感がやかましい程に警鐘を鳴らしている。


「–––––––––ッ!!」


 踏み出した足を無理矢理に引っ込めて後退する。


 その瞬間、目に見えない斬撃が飛んで来た。


「ッととと!!」


 まさかとは思っていたが間一髪で斬撃を躱すことが出来たことで、驚きのあまり尻餅を付きそうになってしまった。


 鼓動がうるさい。


 今咄嗟に退かなければ胴体を真っ二つにされていたであろう映像がかなり濃い形で浮かんでいる。


 挑発のスキルでも使っていたのか。


「完全に誘い込まれたわね………」


 再びの膠着状態。


 鎧の戦士は事も無げに居合の構えを取り直している。


「これでまた間合いに入ればあの斬撃が待つって訳ね」


 さてどうするか。


 不幸中の幸いではあるが、今の一撃で鎧の戦士の間合いはある程度掴めた。これを上手く利用すれば回避後に間合いを詰めることは可能だ。


「…………………」


 問題はその後になにが待っているか。


 大凡の間合いは掴めても次の一撃までのラグや、他の斬撃のバリエーションも読めない。


 保有しているスキルも不明と分からないことだらけとなっている。


 目の前にある巨大な扉。


 そこになにかあるのは確実だというのに、たった一体の戦士に阻まれて先に進めないなんて。


 接近戦を挑めば分が無いとは言い切れない。


 価値はあるが、それ以上にリスクが大きい。


 鎧の戦士が放つ斬撃は確実に私の命に届く。


 どうする。


 どうする。


 どうする………。


 深く深呼吸をする。


「……止めだ」


 今は死のリスクを負う時ではない。


「悔しいけど今日のところは退くわ」


 口惜しげに鎧の戦士を睨み付けるが迎撃の姿勢のまま動きが無い。


 扉を守ることしか考えておらず、私のような外的には歯牙にも掛けていないようだった。


 最後、鎧の戦士を指差してどこかの悪役のような捨て台詞を吐いて、私はそそくさとヴァンデラを後にすることとなった。


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