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41話 形骸都市ヴァンデラ

「降り立ってみたものの………」 


 時刻は夜。


 人気は無く辺りは酷く静かだ。


 世界のどこに位置する街なのかは分からないが、なに一つとして無事でいる建物が存在していない。


 そのどれもが破壊されて瓦解してしまっている。


 明かりは一切灯されておらず、月明かりが地上を照らしてくれなければ視界はゼロとなってしまっている。


 ハッキリ言ってかなり不気味な街だ。


 かつては結構栄えていたであろうことは想像出来るが、今はもうその面影は全く無い。


「あれ、は?」


 月明かりの中で自由に飛んでいるシルエットが見える。詳細は分からないが、間違い無く飛龍の類になる。


「なんでこんなところに飛龍が……」


 この街が崩壊してしまっていることになにか関係があるのか。


 火憐から受け取った黒い鍵。


 思うがままに動かされている気がして引っ掛かるものを感じつつ、使ってみると恐ろしく不気味な街に降り立ってしまった。


 建物だった存在の傍に見えるのは白骨化した死体だった。


 一体、いつからここにいたのだろうか。


 こんな場所だ。


 誰も来るはずが無く、弔っても貰えないという事実に慈しみと憐憫の念を覚えて短く手を合わせる。


 担いでいるザックに、なにかヒントになるものがないかと手を触れるがすっかり朽ちてしまっていることで砂と化してしまった。


 そこから出てくる物は無く、なにも得られないかと息を吐いたがふと手に紙切れが引っ掛かっていることに気付く。


 形骸都市ヴァンデラ。


「これがこの街の名前か」


 その名の通りここにはかつての面影を僅かに残しただけで、街としての機能は失ってしまっている。


 鍵の色や形状、そして纏うオーラからして間違い無く通常とは違う。


「なにかあると考えるのが普通なんだけど……」


 ずっと首元に刃物の切っ先を当てられているような感覚がある。そこにいるだけで身を削られるような恐ろしい感じだ。


 息を吐く。


 高度がある場所なのかやけに息が切れる。


 歩けども歩けども周囲の景色は変わらない。


 これ以上なにも見つからないか、と今夜は出直そうとした時だった。


 退屈に進めるだけの歩みが止まる。


 視線の先には私以外の人の姿があった。訪れる新鮮味はあるが、それが味方であるという保証は無い。


「………ッ」


 言葉は無くとも伝わる敵意。


 それが手に槍を携え、一気に間合いを詰めてくる。


 全身に鎧を纏い、兜の隙間からは妙に赤い目が見えている。ただならぬ雰囲気を持つそれは高速で突きを入れる。


 目や心臓と急所を狙う高速の一撃を辛うじて避け続ける。


 月明かりに照らされて刃が妖しく煌めく。


「こッのぉッ!!」


 身を翻しながら繰り出す裏拳は、確かにそれの硬い兜を捉えた。重たい感触と確かな手応えは顔面を弾いてたじろがせる。


 だが高い防御力により一撃昏倒はさせられず、一拍の間の後にはすぐに反撃をしてくる。


「良い槍持ってんじゃん」


 攻撃自体は速いが決して隙が無い訳ではない。


 得物を掴んで無理矢理奪い取る。


 このまま槍を以って敵を倒してしまおうかと考えたが、武器から伝わる重量感と拒絶を感じて即座に遠くに放り投げる。


 単純に適正値が低いせいでは無く、武器自体が意思を持っているような……。


「おいこら、どこを見ているのかな?」


 彼方へと消えた武器を追おうとしたことで、私への意識は完全に逸れてしまっていた。


 声に反応して振り向いた時にはもう遅く、がら空きの顔面に私の拳が正面衝突することになる。


 クリティカルヒットに等しい打撃を加え、それはフラフラと天を仰いだ後に重心を傾け倒れるということころで霧散した。


「ランクで見るならE〜Dってところかな」


 現れた魔獣の核とも呼ぶべき魔石。


 それは本当に魔獣の体内にあったのかと疑ってしまうくらい美しいものも存在している。


 砕けた魔石は空気に混じって私の身体へと吸収される。


「魔石があったということは今のは魔獣だったのか」


 凶暴性で言うのなら先日のオーガの方が余程それらしかった。


 つい先程見掛けた何者かの死体は今の鎧の魔獣の仕業なのだろうか。


「!」


 今の短い戦闘がスイッチになったのか、遠くで獣の遠吠えがした。それを皮切りにあちこちで魔獣の気配が感じられるようになったが、まだ私のことは感知出来ていないのか近付いて来てはない。


 さて、どうするか。


 言い知れぬ嫌な予感がしているが、まだこの街のことを掴めていないことが引っ掛かっている。


 一旦退いた方が良い。


 その判断が正しいということは分かっている。


 だが状況が危機に瀕していないだけにもう少しという欲が出てしまう。


 なにがあるのかさえ分からない。


 せめてこの踏み出す一歩が蛮勇へと変わらないことを祈るばかりだ。

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