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40話 今後の展望。異端狩りなる存在

「まさか、呼び出しが掛かるとは思ってなかったわ」


 違法合法問わず希少品、珍品が揃う災厄の街に存在する闇市。


 海千山千の商人達を統括する者の一室にて、私は目の前にいる幼女と向かい合っている。


「そう睨むな。もう魔王という肩書きは無いんだから、そこまで不遜ではないでしょ」


 大きな机。


 この組織のボスである火憐は両肘を置いて組んだ手に顎を乗せて微笑む。


「なにか危害を加えようって訳じゃない。なにせ夢瑠には感謝しているんでね」


「感謝?私はなにもしてないけど」


「そうでもない。中々見込み有る商人を連れて来たじゃないか」


「ん?あぁ、バクのことか。アイツがなにかやらかしたの?」


 それが誰であるかというのはピンと来たが、それだけではまだなにを言わんとするか掴めない。


 火憐が苦笑いする。


「やらかすって……夢瑠がバクについてどう考えているかよぉく分かる発言だね。やらかすだなんてとんでもない。その逆で売上に大きく貢献して貰っているんだ」


 火憐曰く、あの一件以来もバクはここを訪れているらしい。


 その時はそれどころでなく仕入れが出来なかったという鬱憤を爆買いという形で晴らしたようだ。


「で、素晴らしい商人を連れて来たということになる。これで大丈夫かな?」


 火憐がそう言って手に取って見せたのは一つの鍵だった。


 黒く、どこか不吉さを感じさせる禍々しいオーラを纏っている。装飾の類は無いが、細く鋭い形状をしている。


「それは?」


「分からない。先代の頃からあったものなんだ。私達ではどうにも使い道が無いものでね、今回の謝礼を込めて差し上げようかと」


 貰えるというのならこれ程有難いことは無い。


 怪訝には思ったが、そこは素直に受け取ることにする。


「…………」


 矯めつ眇めつ眺めるがやはり変わっている。


 これを使えば一体どこに繋がるのか。


「漂っているオーラからして、夢瑠が求める世界樹には繋がるかは怪しいけどね。それより今後も変わらず旅を続けていくつもり?」


「当たり前でしょ。今更退ける訳が無いわ」


「オーガを倒した時の力は凄まじかったわ。張り直した結界を突き抜けて伝わる魔力は全盛期を思わせる程に」


 どこまで見られていたのか。


 火憐は大通りでの死闘のことも把握しているようだ。


 だが、浮かべているのは知る者としての余裕の笑みでなく、懸念を含めた不安だった。


「教会が動くかもしれないわ。十分に気を付けた方が良い」


 教会。


 それは裏世界に住まう人々を時に導く存在。神を祀り、信じてこの世の平穏と救済を願う組織。


 あくまで表向きは。


「異端狩り、か……」


 裏ではそう呼ばれている。


 過激な表現をするのであれば自分達以外の存在。いわば世界の秩序を乱そうとする者を抹殺する組織。


「今回の件、力を失って長らく静かにしていた元魔王の健在ぶりを示すには十分過ぎたからね。幸い、この街に教会は無いからせめて知られていないことを祈るばかりだ」


「私としては今回のことは偶発的なものだし、今更世界を危険に晒すとか秩序を乱すだなんて考えていないから見逃して欲しいけどね」


 自在に魔王化が出来ればもし襲われても返り討ちにすることは可能だ。


 だが、今の状態でそうなれば早々に滅せられてしまう。


 そういえば、と違う話を切り出す。


「一応聞いておくけど、ここにいた二体の合成魔獣どうしたの?」


 最初に来た時に見た巨大な見たこともない魔獣。


 目を合わせただけで四肢がバラバラになったかと錯覚する程に強烈なそれらが、今日来た時にはもぬけの殻となっていた。


「あぁ、出荷したよ。当然北の大陸にね」


 火憐は事も無げにそう答える。


 平然としているその姿に若干の苛立ちを覚えてしまう。


「これで戦況は引っ繰り返ることになるだろう。一転人間側が優勢になる」


「問題はその後、ね」


「どうだろうね。あの二体だけで事が済むかどうか」


「どういうこと?」


「魔獣側で、裏で糸を引いている者がいるかもしれない。こうなることを見越していたのなら、もう一山、二山はあるかもね」


 それはあくまで憶測であり、火憐の願望でもあった。


 なんの根拠も無いことなのだが、コイツがそれを口にすると本当にそうなってしまいそうで怖いところがある。


「そう予想しておいてあんな危険な魔獣を売るなんてね」


「勘違いしてはいけない。私はあくまで商人であり、立場としては中立なんだ。戦争でどちらが勝とうが知ったことではないのさ。私としては生かさず、殺さずこの戦争が少しでも長引けば良い」


 ただ、それだけのこと。


 火憐はそう言って締めた。


 思うことはあるが、私はこれ以上なにも言わずにいた。


 言ったところで、こんなところで舌戦を繰り広げたところで栓無きことであるということ。


 そしてどう思おうが私に出来ることは無いということ。


 僅かな歯痒さを覚えてその場を後にする。


 微力では無力同然なのだと。

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