38話 障害を蹴散らす
今日も今日とて残酷なまでの日差しが地上に降り注ぎ全てを熱している。蝉は己が責務を全うすべく懸命に鳴き続けている。
悪いが、それがまたこの暑さを助長している。
つい先日、裏世界で肝を冷やしていたのが嘘のようだ。
「連日この暑さじゃ参ってしまうわ」
身体に掛かる寒暖差が激しいせいで季節外れの風邪でも引いてしまいそうだ。
「まぁ、この暑さもこの場合だとそう悪いものじゃないか。カケルもそう思うでしょ?」
「あぁ……そう、だな」
カケルが引き気味で同意する。
町の片隅にある神社の境内。
敷かれた熱々の石畳の上で土下座をしている男が五人。
私は無様な姿をしている連中を見下ろして溜息を吐いてしまう。散々息巻いていたくせに、いざお手並み拝見と拳を交えるとこの有様だ。
「まるで私が悪者のようね。仕掛けたのはお前達で、全面的に悪いのもまたお前達なのにね。今、どういう気持ちなの?」
「じ、自分達は強いのだと勘違いしてしまっておりました。勿論俺達が悪いので、この件で貴女に迷惑が掛からないようにしますので……」
呆れるばかりだ。
この程度でよく我が物顔で町を歩けていたものだ。
「世間知らずで勝手に勘違いして腫れ物扱いされて。さぞかし気分が良かったでしょうね。実際は弱過ぎて思わず勢い余って殺してしまいそうになったけど。私としては不完全燃焼も良いところなんだよね。この中の一人、本当に殺しちゃっても良い?」
「それだけは……本当にすみませんでした。反省しております。なので、どうかご勘弁を」
主に話しているのは蛇塚という男。
殺す、だなんて非現実的なことではあるが到底冗談には聞こえないことだろう。その証拠に全員ガタガタと震えてしまっている。
「夢瑠。もうその辺にしてやってくれ」
「随分とお人好しね。カケルが一番の被害者でしょうに。こういうのは今だけなんだよ。こうやって大人しく謝ってはいるけど、すぐに元に戻るのよ。性根から叩き直してやる時間は無いし、ここで心を折ってしまった方が良いと思うけどね」
私が勝手に熱くなっているだけで、カケルからは求めていた同調や賞賛は得られず募らせた不満を口にする。
わざとらしく唸っては首を傾げてはみるが、その辺り相容れない部分となりそうだ。
「顔を上げろ」
短く、低い声で言うと五人は訓練された犬のように即座に反応する。
そうして私が指差す先には、その五人のリーダー格となる男が大量の鼻血を垂らして転がっている。
「鬼龍だっけ?どんなもんかと思って期待はしてたけど、蓋を開けてみれば大したことなかったわ。これまで会ってきた有象無象以下だったわ。よくあんなのに付き従ってたね」
肩を竦めて、挑発的なことを言い放ってやると数人が複雑そうな表情を浮かべる。
なるほど。
力で押さえ付けるタイプの人間かと思っていたが、ある種のカリスマ性めいたものは兼ね備えていたのかもしれない。
「カケルに免じてこれ以上の危害は加えないでおいてやるわ。ただし、それは今後のお前達次第でもあるということをゆめ忘れるな。お前達をいつでも私に見られていると思え。良いな?」
蛇塚を筆頭に男達は大人しく頷くばかりだった。
当然今のはブラフも混ざっているが、わざわざ優しく伝えてやる必要性は無い。
「こんなところかな」
行って良し、と手をヒラヒラさせると男達は蜘蛛の子を散らすようにアタフタとしながら離れていく。
数人がかりで失神している鬼龍を担ぎ出している姿を見てまた息を吐く。
「夢瑠、ありがとうな」
カケルが申し訳無さそうにそう言う。
情けなさ、罪悪感が入り混じっているようだ。
「ま、サービスの一環ということにしておこうか。オーガを倒せたのはカケルのおかげでもあるからね」
微かな風が吹くと、境内で伸びる木々の葉が乾いた音を鳴らす。
もし、カケルがあの場面で恐怖を克服することが出来なければ、オーガは供給源を失わず健在のままだった。
魔王化というリスクを負ってしまったが、終わり良ければすべて良しということだ。
「これでこの仕事は終わりってところね」
バクの怪しげな飲み物のおかげで怪我の類はほぼ全快している。細かい部分についてはまだまだ時間を要しそうだが、まぁ良い。
「いや、まだ残っているぞ」
カケルがキョトンとした様子を見せながら不思議なことを言う。
「なんだっけ?」
「まだ精算が残っているぞ」
「う………」
有耶無耶にしたままにしてやろうかと思ったが覚えていたか。
反応してしまったからには嘯いたところで栓無きことか。
さて、払えるお金はあるのかどうか。
今から物凄く不安だ。




