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31話 全てを失い、私達は旅に出た。

 天を見上げれば分厚い灰色の雲が空の大部分を覆ってしまっている。今にも雨が降りそうだというのに、持ち堪えてくれているのは私に向けたせめてもの慈悲なのか。


 本来そこにある筈のものが崩れ落ちてすっかり吹き抜け状態となってしまっている。


「ふ、これが末路か………」


 全世界で知らぬ者無し。


 恐れぬ者も無し。


 だが、それは敵対勢力や善良なる一般市民だけでなく味方さえも同様だったことに、まるで気が付かなかった。


 全く歯牙にも掛けていなかった。


 私だ。


 なにを於いても私だった。


 私さえ強ければ皆付いて来てくれる。


 強く、強くあれば負けることがなく屈伏させて無理矢理にでも仲間に引き入れる。元々敵対していた相手であろうと裏切りの余地なんて与えない。


 一体どこから間違っていたのか。


 あれだけ栄華を誇った魔王の城が崩壊して廃墟以下の存在となってしまった。殆ど全てを失いながらも、座る玉座だけが無事で済んでいるというのはなにかの皮肉か。


「やっぱりこうなっちまったか」


「煌夜……」


 皆が去っていく中で残った者が一部。


 落ち込んで俯いている私に向けて声を掛ける男が一人。


「お前は行かなくて良かったの?言っておくけどこの有様よ。私に付いたところでなんのメリットも無いわ」


「夢瑠が魔王になる前からの長い付き合いだからな。せめて俺くらいは一緒にいてやろうかなってな」


 溜息を吐いて背もたれに重心を預けると怪しげな音をたてながら軋む。


「同情ってことね。嬉しいような、悲しいような複雑だわ」


 煌夜はこの状況に於いても愉快そうに笑う。


「そう言うなよ。これまで一緒にいたのに、いきなり一人ぼっちにはさせられないだろ。大体、魔王の座から下ろされてこれからどうするんだよ?」


「それは……」


 まさに急転直下な出来事であった為に色々追い付いていない部分が多過ぎる。絶望に打ちひしがれて、いっそのこと安易な死を選ぼうとも考えたのだが強くなり過ぎたことで、それすら出来ない状態にあった。


 ましてやその勇気も無い。


「無いだろ?」


「う……」


「だって戦闘狂だったからな。実際滅茶苦茶で、チートかよって思えるくらいの強さだったから成立していたんだけど。そんなお前が他に出来ることってあんまり無い気がしてな。どうする?これからまた、新たに仲間を見つけて返り咲きを狙うか?」


「それはもう良いかな」


 今回の事件には裏で糸を引いている人物がいる。


 その目星は付いているし、今すぐにでもぶっ殺してやりたいくらい憎悪はあるがそうしたところで虚しいだけだ。


 それに失った者達は戻って来やしないだろう。


「なにがしたいのか。全然分からないわ」


 戦いに明け暮れる日々を過ごしていたせいだ。


 煌夜の言う通り、こうして自身を見つめ直して気付いてしまった。


 なんと空っぽな存在であることかを。


「だったら俺と旅に出ないか?」


「なんの為に?」


「さぁ。そんなことは分からんよ。ただ、長い時間を掛けて旅をすることでお前にもなにか見つかるかもしれないだろ?」


 旅、ねぇ。


 どうにもピンと来ない。


 それはもしや、私が未だこの玉座にしがみ付いていたいという気持ちの表れだったのかもしれない。


「魔王時代も、碌に世界を見て回ってなかっただろ」


 確かにその通りだった。


「だから足元を掬われたのかな」


「かもしれないな。それも含めて旅ってことかな。自分が支配していた世界の足元を知るのも結構大事なことかもよ」


 空を覆っていた分厚い曇天。


 その一部にポッカリと穴が空くと、そこから差し込む陽光が崩壊して廃虚と化した魔王城を照らす。


 なんの悪戯か。


 それはスポットライトのように煌夜を照らすと、まるで演劇の一幕ように感じられた。


「行こう。なぁに、なにかあっても俺がお前を守ってやるよ」


 煌夜は笑みを浮かべると力強い握り拳を作って見せた。そんな姿が滑稽で、思わず釣られて笑みを零してしまった。


「よく言うわ。隊長クラスが精一杯で弱っちかったくせに」


「ちょ!それは言うんじゃねえよ。大体な、俺達の長い付き合いのことを考えればもっと贔屓目に見て、四天クラスに昇格させたって良かったくらいだぜ」


「無理無理。そんなのは許されないって。そうしたところでどいつもこいつも癖が強かったからね。三日で殺されてたかもよ」


 重い腰を上げる。


 そのまま段を降りて煌夜と対等な目線に立つ。


「元、とは言え魔王を連れて旅に出るとか大胆ね。恨みを持つ者も多いだろうし、大変になるかもしれないけど本当に良いの?」


「問題無えよ。むしろ昔に戻ったみたいで楽しみでさえある」


 まだなにも無かった頃を思い出したのは私も同様だった。


 肩の荷が下りたようで物凄く身体が軽くなった気さえしている。


「全く……。私に向かってそんな口利けるのはお前くらいだわ。しかも旅に出ようだなんて本当に酔狂ね」


 煌夜はまた笑う。


 そして手を差し伸べる。


「大丈夫。俺はなにがあってもお前の味方だから」


 こうして私達は長い旅に出ることになる。


 その先に悲劇が待っているとも知らずに。


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