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29話 元を辿るということ

 少し移動して、二人日陰の中で置かれたベンチに腰掛けてボンヤリと空を眺める。


 手に握る冷たいペットボトルも、この暑さにやられて汗をかいてしまっている。


「………………」


 やや重い沈黙。


 ふと視線を手近にやれば、古びたベンチには炭酸飲料水メーカーのロゴが見える。次に背後を見れば、煤けた錆色が目立つシャッターがありどうやら商店を営んでいたということが分かった。


 止めてしまったのか、閉じられたシャッターは必要以上に頑なにも見える。


「なにかあったの?」


「……………」


 沈黙は続く。


 頑なな存在がここにも。


 あまり話したくないことであるのは分かる。


 だけどこれは出来る限り知っておきたいことになる。なにせあの鬼龍とかいう男の姿は殺人鬼オーガに酷似している部分があったからだ。


 上背や体格は異なっているが、私が注視したのはその顔付きと纏う雰囲気だ。


 本能のままに動く獣のような男。


 私に向けて殺意の言葉を投げ掛けていたが、あれは単なる脅しなんかではなくその気になれば殺しだって厭わないだろう。


 あの殺気は触れるだけで相手に恐怖させるには十分に値している。


「沈黙は金、だったか。確かそれは夢瑠には通じないんだったよな?」


 カケルが項垂れたまま、ボソボソと言う。


「まぁ、そういうことかな。一応正解ってことで」


 弱みに付け込むような真似はしたくないが、こうして口を開いたということはその気が生まれたということだ。


「あまり詳しくは話したくねえ」


 そこからカケルが話したのは特段物珍しい類のものではなかった。


 学校内で連中から暴行を受けている生徒がいた。見ていて、それが気に食わなかったから間に入ってぶちのめして追い払った。


 その後は予想通りのパターンだった。


 蛇塚や他取り巻き達が何度やって来ようとも返り討ちにしていたが、ある日を境にそれは一変した。


「情けないことに俺も弱かったみたいでな。鬼龍にボコボコにされたよ。それからはほぼ毎日のように。最初はそれでも抗っていたんだが、いつの間にか折れてしまっていたようで……後は推して知るべしってな」


 拙いながらも立派な正義感を持っていた男が、悪に負けて犯罪行為にまで及んだ。


「今はもうただ鬼龍が恐ろしくてな」


「それは仕方無いわ。私はともかく、現実世界の中でアイツはかなり突き抜けた存在よ。そんなのに勝つのはかなり難しいことになるでしょうね。でも、それより難しいことをやってのけたのはカケルよ」


 矛先が自分に向くことなんて容易に想像出来た筈だ。


––––お前はなにも分かっていない。


 かつて、私にそう言った男がいた。


 幹部にもなれていない男が、頂点にいた私にそう言うのはどれだけの勇気を要したことか。


「夢瑠、その手はどうした?」


 顔を上げたカケルがそう言って指を差す。


「折れてはいないと思うけどね。まぁ、しこたま殴っただけに拳にもダメージが及んだってところね」


「俺は死んでも現実世界に戻れば元通りなのに、夢瑠はそうじゃないってことか?」


「そういうこと。私は現実世界ではイレギュラーな存在だからね。カケルのそれとは適応するルールが微妙に違うのよ。あ、でもカケルが裏世界で私の怪我が治るようにと願ってくれるだけで治るよ」


「そうなのか。だったらもっと前に言ってくれれば良かったのに」


 カケルが不思議そうに眉を顰める。


 裏世界で権限を持つカケルならば、十分可能なことだがそれには条件が必要となっている。


 それは本気で願うこと。


 僅かでも疑いの色があれば作用しない。


 結構難しいことであり、いきなりそれを聞かされて対応出来るとは思えない。


「オーガ……復活してたな。倒せるのか?なんだったら–––––––––」


「ストップ。それ以上は言わなくても良いわ」


 大方自身を置いて撤退しろとでも言おうとしていたのだろう。お優しいのは結構なことだが、聞くに耐えず尻切れトンボで遮ってしまう。


「準備はしたし、やれるだけのことはやるわ」


 バクが用意した魔弾がどこまで通用するかが鍵になる。


「夢瑠って元魔王なんだよな?だったら、本来はもっと強いんじゃないのか?」


 カケルが複雑そうな表情を浮かべている。


 疑い、とまでには至っていないようだが。


 元とはいえ、世界の頂点に立っていた存在がそこらの街にいる殺人鬼に手こずっているのだから、それくらい言いたくなるか。


「さぁ、どうだろうね。オーガにしたってかなり強いわ。全盛期の私でもどうだったかな」


 なんて嘯いておく。


 何気無く視線を落とす。


 その先にある自身の腕には未だ無機質な鎖が幾重にも巻き付いてしまっている。


 かつての配下達から受けた呪い。


 それを目にする度、擦れる金属音を耳にする度に当時を思い戒めとしている。


 裏世界で死ねば、そのまま現実世界には戻って来れない。


 呪いを掛けた配下達は、今でもそうなることを願っているのだろうか。

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