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25話 撤退

 雨が一層強くなる。


 粒は大きく、量と勢いが増したことでそれが当たると微小ながら痛みさえ感じる。


 白い靄が掛かり、視界がボヤけていく中で私の瞳は倒した筈のオーガの姿を捉えていた。


 カケルがいた場所には血溜まりが出来、絶命したことによってその姿は消失してしまっている。


 死なせてしまった。


 なにか過去の映像がフラッシュバックしたような気がする。


「お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」


 全神経が急激に熱を帯びていく。


 思考は鈍り、それよりも先に身体が動いてしまう。


 一直線に走り跳躍する。


 オーガの頭部より高く飛び、勢いそのままに拳を打ち下ろす。


「––––––––ッ」


 硬いッ。


 私の打撃はオーガの頭部を揺らしはしたが、その衝撃はきっと脳にまで届いていないことだろう。


 着地し、即座に攻撃に移る。


 腹部に連打し、絶え間無く打撃を加え続ける。先の戦闘時よりも硬化している身体にダメージはどれだけ蓄積させられるだろうか。


 逆に拳が傷んでいる気さえするが、感情の赴くままになんにも考えずに拳を振るい続ける。


「ハアァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」


 拳が軋む。


 歯を食い縛って拳を振るい、唇を噛み切るぐらいに歯を立てて警報を鳴らす痛覚から目を背ける。


 戦え。


 戦えッ!!!


 私でない誰かが叫ぶ。


「ウォォォォォォォォォォッ!!!」


 オーガが叫び反撃に出るが、それを退いて躱す。


「夢瑠!」


「分かってる!」


 取り出すは銀獅子。


 込められた魔弾は残り一発。


 純粋なる殺意を込めて、引き金を引いて爆炎の弾丸を撃つ。


 果たしてそれはオーガに直撃し、爆裂と衝撃を与える。熱量は降りしきる雨を蒸発させ、対象の身を焼き尽くす筈だった。


 立ち上る黒煙。


 今度こそ無事では済まない。そう確信し、後は今度こそオーガが絶命に至ったかどうかに焦点を当てることになる。


「さて、どうなるか」


 殺意の塊をぶつけたこと、そして大雨に晒されたことでゆっくりと頭が冷えていく。


 そうなることで思い出したかのように酷い倦怠感が襲い来る。


 たった二発の魔弾を撃っただけでこの消耗度合い。それだけで私自身が弱体化してしまったのだと痛感させられる。


「でも、流石にこれで終わりでしょ……」


 大雨の中、ポツリと呟くその声は地面を穿つ音に掻き消されてしまう。


 息を切らしながら入っていた力を弛緩させていく過程で、突如黒煙が霧散してしまった。


「嘘でしょ」


 思わずそう漏らす。


 そこには平然と立つオーガの姿があった。


 全く衰えを見せない殺気に、魔弾を受けたことを意に介していない様子が少なからず衝撃を与えることとなる。


 オーガの咆哮。


 そして私を殴殺せんと迫る。


「––––––––––ッ!!」


 身体が、動かない。


 一度切ってしまった緊張感や戦意を取り戻す時間が足らず、露骨なまでに反応が遅れてしまった。


 迫る岩石のような拳。


 数秒後には全身を破壊されて死を迎えるという明確なイメージが湧く。


「ガァッ!!」


 だが、オーガの拳は見えないなにかに阻まれて弾き返されることとなる。


「夢瑠!駄目だ!一旦退こう!」


 バクが必死に叫ぶ。


 どうやら今バクの魔道具に辛うじて助けられたようだ。オーガは僅かな動揺の後にも、我武者羅に拳を結界にぶつけ続ける。今はそれが機能し、私を守ってくれてはいるが少しずつヒビが入り始めている。


「花天の盾がそんな簡単に破られるとか有り得ないでしょ。だったらこれでどうよ」


 オーガの足元に六芒星が浮かび上がる。


 そこから伸びるのは紫の鎖で、あっという間にオーガの四肢を縛り上げて自由を奪う。


 バクの魔道具二連発で一時的にオーガの動きが止まる。


 それを好機と捉えて弾倉に魔弾を装填しようとするが、


「夢瑠!もう使うな!」


「でも今使えば今度こそ倒せるかもしれない」


「無駄だって!もうコイツはそんなレベルの相手じゃない!それにこの雨じゃ爆炎弾の威力は数割減になるし余計不利になるわ」


「––––––––––––––ッ」


 自分の消耗度合いは分かっているつもりだ。


 それに爆炎弾の効果の程も。


 熱くなって攻撃したところで栓無きことであるのなら、もうバクに従う他手は無い。


 一つ息を吐く。


 鎖を引き千切らんとするオーガに向けて口を開く。


「次よ。次は必ず……お前を殺してやる」


 ノイズのような雨音は依然として勢いを増し続けている。


 その声が届いたかどうかは定かではない。


 最後、私は怨嗟の眼差しを向けたまま災いの街を後にすることになった。


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