23話 幼女の提案
火憐。
そう名乗る幼女は、私達を見て不敵な笑みを浮かべる。
魔王様、と確かに聞こえた。つまり、火憐は私の素性を知っているということだが、にも関わらずこんな無礼とも取れる態度か。
小さい身体で纏うのは艶のある赤い着物。
布の下では筋骨隆々ということもないだろう。
まさに見た目通りであり、小さく華奢なものとなっている。ちょっと捻ればそれだけで折れてしまいそうな儚ささえ感じさせる。
単純な戦力で言うのなら、室外に控える一龍の方が遥かに上だ。
「そう畏まらないでくれ。魔……む、元を付けた方が良かったかな」
「どちらでも良いわ。それより、なんで私達をここに招いたの?噂が正しければ、一定の条件をクリアしないといけない筈だけど」
「勿論だ。なのでここには特別枠として呼んだということさ」
「特別枠?」
そんなのがあるのか。
いや、一龍の口ぶりからしてそれを把握している風でも無かったし、呼び出す口実に無理矢理作ったとも考えられるか。
火憐が人差し指を立てる。
「一つは闇市への還元。闇市の利用者で、一定金額を使ってくれた者はそれだけで上顧客ってことになる。それで言うと、そちらのバクは表の商会で社長をしていることもあって、今後も太い取引を続けられそうだしね」
一見の可能性だってある。
提示された条件に期間の定めがないのは敢えて、ということか。にしてもバクのことまで知っているとは。
「二つ目はこの街の脅威を取り除いてくれたこと。厳密には殺人鬼オーガのことを指しているのだが」
「意外ね。裏の世界の人間がそれを気にしているなんて」
私が言ったことは的を外したものだったのか、火憐は目を見開いた後に瞬かせる。
だがすぐに合点がいったようだ。
「いやいや。私のような人間でも表側を蔑ろにしたり、食い物にしているって訳じゃないんだ。むしろ顧客の半数以上が表側から来ているからね。そんな中で闇市にまで辿り着けるような貴重な人間を、訳の分からない殺人鬼に殺されていては商売に悪影響を及ぼしちゃうからね。なにせ神出鬼没だ。表側だけでなく、裏側にも姿を現したこともあったくらいだ」
なるほど、そういうことだったのか。
私がオーガを倒したというのを知っているのは、なにかしらの魔道具を用いたということか。
「あとはそのネームバリューかな。なにせ長らくこの世界を統治していた元魔王様、そしてその幹部であった魔具師バクの大物両名が利用したとなれば、良い宣伝効果になるだろう」
「どうかな。バクはともかくとして私の方は悪名高い部分がかなりあったと思うけど?」
「でも今は当時とは違うでしょ?」
「……まぁね」
「随分と顔付きが優しくなっている」
火憐が私のことを知っていてもなんら不思議なことではない。
なにせこの世界の頂点に長らく立ち続けていたのだから。そんな存在のその後、いや末路とも呼べる人生について興味を示す者も多い。
大半が面白半分になるが。
「弱体化したとも言えるわ」
「そりゃそうだ。なにせ最期はかなり気の毒だったからね」
火憐は私の心情などまるで気にせずカラカラと愉快そうに笑う。
この場で引き裂いてやっても良かったが、それが出来ないことを知った上での言動か。
「まだあるんじゃないの?」
険しい表情を浮かべ、ただ沈黙のまま状況を見守っていたバクがここで口を出す。
「ここにある商品は闇市のそれと比べて更に一線を画すものばかりだった。それを見せて購入させる目的でなく、わざわざ火憐の元に連れて来たからにはまた別の目的があるんじゃないの?」
火憐が嘆息し、片眉を下げて薄っすら笑みを浮かべる。
「さすがバク。その通り、ここに呼び出したからには本命となる目的がある」
火憐が指を指す。
その方向には私やバクではなくカケルがいた。
「え?俺?なにかの間違いだろ?」
「間違いではない。カケルは一時的とは言え、この街の鍵を握る人物となっている。それは即ち権限を持っているとも言えるのさ。私はそれが欲しい」
火憐がニッコリ柔和な笑みを浮かべて、次に驚きの提案を出すことになる。
「カケル、元の世界に戻るのは止めて私の元で暮らさないか?」




