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22話 合成魔獣という商品

 大きな背中を見ながら、私達は黙って男の後を付いていく。


 男は自身を一龍と名乗ったものの、周囲を気にしてかそれ以上の詳細は未だ語られていない。


 それについては、私達は一様に気になってはいるのだが有無を言わさない圧を感じさせている。


 先程のやり取りで力量差というものは明確なものとなったのだが、それを加味しても私が言葉を憚らせてしまっている。


 バクは通り過ぎていく店に対して視線を引っ付けて、後ろ髪を引かれながらも後方を歩く。


 それにしてもこの闇市はどこまで続いているのか。


「あれ?」


 唐突に空気がクリアなものになった。


「もう少しだからな」


 一龍にそう言われて数秒後に景色が開け、急に視界が明瞭なものとなった。ずっと外を歩いていた筈なのに、いつの間にやら室内に移動してしまっている。


「バク……」


「いや全然気付かなかった」


 急激な移動。


 それは間違い無くなんらかの魔道具によるものだが、バクの感性をすり抜けてしまうとは。


 それは四方を灰色で囲んだ空間だった。


 コンサートホールのように広い空間内に置かれているのは二つの巨大な箱だった。


「まるで巨人ね」


 真っ黒に染まり、中になにがあるのかは見えないが言い知れない迫力を感じさせる。


 私より敏感なのがカケルで、その箱に近付いていく毎に表情を強張らせて震えている。


「カケル、大丈夫?」


「あぁ。でも夢瑠達こそ大丈夫なのかよ?あの箱にいる怪物は……」


 カケルは身を縮こませて一層ガタガタと震える。


 一体なんなんだ、と改めて箱に目を向けた瞬間に途轍も無い重圧に襲われた。


「嘘でしょ……なにこれ」


 重力が急激に増して押し潰されてしまったかのような感覚。息が苦しく、呼吸すらままならなくなってしまう。


 仕様なのか近付いたことで、真っ黒になっていた箱が透明へと変わって中身が露わになると、それだけで強烈な死を連想させられることとなる。


 顔は獅子、胴体には白く大きな翼が生えており、尾には真っ黒な大蛇が伸びている。


 向けられる強い憎悪。


 目を合わせているだけで命を奪われてしまいそうな。


「心配は要らねえよ。コイツは箱に囚われていて決して表に出ることは出来ないからな」


「一龍、これ程の魔獣を一体どこで?」


 私が知らなかったというだけで、世界のどこかに生息していたということか。


 それを突き止めたとしても、この魔獣を捕らえるのは至難だ。少なくとも今の私では論ずるに値しないレベルであり、全盛期の頃であってもどうだったか疑わしいくらいだ。


「コイツはどこかに生息している魔獣ではない」


 一龍から発せられたのは想像していなかった回答だった。


 それを聞いたバクには察するものがあったのか表情が険しいものへと変わる。


「合成魔獣。数々の強力な魔獣を掛け合わせて作った魔獣がコイツだ。それをしたのはボスだから詳しい方法については分からないがな」


 向けられる憎悪は自身を作った人間という存在に対してのものだということか。


 慣れているのか一龍は平然と近付いて乱暴に箱に拳を叩き付ける。


「近々コイツが売れるかもしれないからな。今の内に見ることが出来て良かったな」


「売れるって……この魔獣も商品なの?」


 バクが眉間に皺を寄せてそう詰め寄る。


 バクが取り乱すのは珍しい。いつ何時だってヘラヘラしながら、私がなにか言っても適当に嘯いてはぐらかしたりもするというのに……長い付き合いでこんな一面もあるのは知らなかった。


「そうでないものをこうして丁重に置きはしない。俺達が取り扱う以上、それは立派な商品だ。売り先は北の大陸のお偉いさんだったか。言い値に加えて即金で払ってくれそうだから有難い限りだ」


「馬鹿か!そんなところに売ろうものならどうなるか–––––––––」


「買主がその後なにをしようと知ったことではないんでね」


 北の要人ということは、ほぼ間違い無くこの魔獣は戦渦に投入されることになる。そうすることで劣勢だった戦況を、一気に引っ繰り返すことが可能となるだろう。


 だがその後は––––––––––––。


「最悪全滅することになるぞ」


「俺達には関係の無いことだ」


 これ以上は不毛だと一龍は再び歩き出す。


 ここに来て引き返すという選択肢は存在しておらず、良くない予感を抱えながらも先に進むことにする。


 幸いなのか、それ以降は合成魔獣のような商品は無くひたすらに希少且つ強力で高価な品が並ぶだけだった。


 バクにはまだ禍根が残っているのか、どこか浮かない表情のままだった。


「ここだ」


 そう言われて案内されたのは黒檀の重厚な扉だった。


「俺の案内はここまでだがお前等、決して粗相の無いようにな」


 ノックの後に入室をする。


 特別広いという部屋ではなかった。各所に豪奢で煌びやかな品々が置かれており、ボスなる存在が過ごすには相応しいものとなっている。


 真正面にある大きな机と椅子。


「やぁ良く来たね」


「は?」


 そこにいたのはボスと呼ばれるには似つかわしく無い幼女の姿をした者がいた。


「ようこそ。魔王様」


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