21話 傷だらけの男
進めども進めども周囲の景色は変わらない。
一体どこまで続いているというのか。
このまま奥へ進んだところで、先程聞いた都市伝説めいた場所に辿り着ける訳ではないのだが、こうも状況が変わらないと食傷気味にもなってしまう。
並ぶ品々はコロコロと変化していくだけに、バクの瞳はずっと輝きっ放しとなっていて衰えを見せない。
「薬でもやってんのか」
そう言ってしまうくらい無尽蔵の体力を誇っている。
「にしてもどの店主も愛想というものがないよな」
どれも浮かべるは不機嫌そうな仏頂面だ。
それはバクが沢山の買い物をしたとしても同様だ。実はポーカーフェイスなだけであって、内心では嬉しくて小躍りしているとかならまだ可愛げというものもあるのだがそれすら無さそうだ。
「そもそも来客達がかなーりクセがありそうだからね。笑顔振りまいてたら付け込まれたりするもんなのかも」
隙を見せない、という意味合いでは有効なのかもしれない。
なにか交渉をしよう、というよりそもそもコミュニケーションすら取る気が失せる態度だ。
そんな店主達に緊張感が走る。
「なんだ?」
カケルでさえも察することが出来るくらい空気が張り詰める。
舐め腐ってだらしなく椅子にもたれ掛かっていたのに、いきなり背筋が伸びる。
それは周辺の店主達一律の反応でなにかが起きたのは明らかだ。
「なにか来る……」
スパッと肌を裂いてしまいそうな程に鋭い空気感。
薄暗闇から現れたのは髪を金に染め上げた大男だった。
「………ッ」
コイツだ。
真っ黒なスーツを身に纏い、腰に構えているのは長い刀だ。好戦的な目付きに、顔に刻まれた無数の傷。
堅気ではないことは明らかだ。
商人が纏うそれではないが、それでも闇市にいるということは同業ということになるのか。
そして店主達の態度の変化からして大口の取引先かなにかなのか。
「よぉ、探したぜ」
あろうことか男は私達の目の前で足を止めた。
首元に切っ先を突き付けられたような感覚に陥る。
殺人鬼オーガとはまた別の圧力を持っている。
「私達になにか用があるの?」
「ボスからお前達を呼んで来いと言われてな。夢瑠とバク、そしてカケルの三人組で間違い無いな?」
「ボス?そういうアンタ等は一体何者なの?」
品物の物色を中断し、バクはいかにも危険そうな相手に暢気な物言いをする。
ボスと言うことはなにかしらの組織が存在していることになる。これ程の男を従える存在となると興味はある。
「ふ、それに答える義理は無い。お前達は四の五の言わずに付いてくるだけで良いんだよ」
「ふーん……なるほどね」
バクが露骨に興味無さげな反応を見せる。
あ、コイツ断る気だな。
「面倒だしパス。そもそも態度が気に入らない」
「ほぅ。さすが良い度胸しているじゃねえか」
男は当然引き下がる筈がなく、むしろ火が点いたようだ。息を吐きながらゆっくりとその手を柄に伸ばす。
「夢瑠、任せて良いよね?」
「まぁ、そういう契約でもあるからね」
カケルを巻き込むまいと一歩前に出る。
男が舌打ちの後に刀を抜こうとする。繰り出されるは居合の一撃でその動作は相当に速い。
「よっと」
だが、男の一撃は不発に終わることとなる。
「テメェ……」
男が上目遣いで睨み付けるものの、それに対してやんわりと笑みで返してやる。
なにか魔道具を使うということもなく、単に出所を押さえ込んでやっただけだ。男は力を込めて強引に抜こうとするがビクともしない。
「どう?これだけで力の差を分かってくれると良いのだけど?」
「なに勝った気でいるんだ?」
男が一、二歩後退する。
腰を一段と沈み込ませ、息を吐き脱力から繰り出される斬撃はおよそ常人には視認出来ない速さを誇っていた。
刹那とも言える過程を経て、標的の胴体が真っ二つになるという結果が待っていることだろう。
相手が私でなければ。
「––––––––––––ッ」
刃は私の肌を裂くことすら叶わなかった。
どころか刃にヒビが入り、男の手からは出血が見られて逆にダメージを受けている状態となっている。
「残念。良い線いってたんだけどね」
「失礼した。どうやら相応の実力があるようだな」
ボス、とやらに従ってはいるが言いなりという訳ではないようだ。自分で判断するくらいには出来る男であるようだ。
男は刀を納めて軽く頭を下げる。
「改めて言っておく。俺達のボスに会ってはくれないだろうか?お前等にとっても悪い話じゃない筈だ」
「ん、分かったよ。会うだけ会ってみようか」
後方に控えるバクが了承したことで事態は動き出すこととなる。
一部始終を見ていた店主達は一様にザワついている。この男と店主達の関係性は分からないが、立場的にどちらが上であるかは自明の理だ。
さてこの明らかに堅気ではない男が誘う先にはなにが待つか。
ただのカフェがある、だなんて平和な展開にはならないことだろう。
そこには目的の鍵の情報はあるのだろうか。
そして私が目指す場所へも繋がるのだろうか。
さぁなにが待つか。




