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20話 闇市。更にその先にあるモノ

 私が脳裏に浮かべてしまった嫌な予感。


 それは先に進めば進む程に色濃く輪郭を帯びていく。


 最初の劇薬を取り扱う男の店からもう何店舗目となることだろうか。一店舗ずつ品を確認し、店主に話を聞いているのだがヒントすら現れないというのはこれ如何に。


「…………」


 不安は募るばかり。


 ふと先を見据えると、まだ見通せない程に道は伸びているし相応の店舗数は構えられていることだろう。


 案内人のヒカルになにか知らないかと聞こうとしたが、いつの間にか姿を消してしまっている。


 静かだなとは思っていたが、一体いつの間に。


 代わりに騒がしくなって来たのはバクだ。


「あ!じゃあこれもお願い!でもなぁ、うーん………ごめんやっぱこれも!」


 ほぼ一店舗毎に足を止めるどころか、根を生やす勢いで品を眺めては購入の可否について考え込んでいる。


 購入した品はもう三桁に到達するのではないだろうか。


 お金を湯水の如き使い続けてもなお出て来る札束に息を呑む。老舗と呼ばれる会社の長ではあるが、これだけの財力を成しているとは驚嘆に値する。


「なぁ夢瑠。バクさんっていつもあんな感じなのか?」


「まぁ、ね。私の配下だった頃も過剰なくらい仕入れを行なっていたし、経理やら財務担当は頭を悩ませていたわ。今は社長になって色々枷が外れて、もう大変なことになってるわね」


 今度は商会の社員達が頭を悩ませていることだろう。


 なまじお金を持っている分、勘定の計算もどんぶり気味だし自身でもここでいくら使ったかなんて把握すらしていないだろう。


「それにあれだけ買いまくっているのに、全然ザックが膨らんでいないような気もするんだけど?」


「あれね、見た目以上に容量が大きいんだよ。多分まだまだ入るわ。ちなみにだけど、ミニサイズで私も懐に忍ばせているわよ。その中に魔武器やらを収納しているって訳よ」


 カケルが間抜けな声を漏らしながら嘆息する。


 現実世界ではまずお目に掛かれない超常とも言える現象だ。そうなるのも無理はないし、どこぞのお偉い学者さんに見せびらかせば卒倒するかもしれない。


「昔、都喰らいって呼ばれた魔獣がいてね。そいつの胃袋を加工したのがアレなのよ」


 闇市の奥へ進む程、他の来客達の姿がまばらながら見えるようになってきた。


 ジロリと観察するかのように引っ付く視線。


 声を掛けて来たりすることはないが、どうにも気になる視線だ。


「ま、見慣れない新参がここらの市場を荒らしているんだからそりゃ気になるって」


 荒らしている張本人が笑顔でそう言う。


 どいつもこいつも綺麗な服装をしている上に、一癖ありそうな顔付きをしている。


 連中はここに来るまでの条件を満たした正規の客だ。


 海千山千の人物が多くいて当然と言える。


 そんな中で若造の三人が歩いているのだから、連中からすれば気に入らない面もあることだろう。


「新参のお手並み拝見っと上から目線で眺めていたら、自分達を上回る勢いで苛立っているって感じかな?」


 バクは口を手で押さえて笑みが漏れるのを堪えながらも随分と愉快そうだ。


「でも、お目当の鍵が見つからないなぁ。ボチボチ手掛かりくらいはあって欲しいけどね」


 それから数店舗分進んだ時だった。


「鍵、か。どんなものかは知らねえけど聞いたことはあるぜ」


 不自然な程に頬がこけて痩せ細った店主が問いに答える。


 ようやく現れた手掛かりに、私達は色めき立つが店主が動揺の色を見せながら待ったを掛ける。


「聞いたことがあるってだけだ。どこにあるかは分からねえよ。もしやここには無いかもしれねえし」


「どういうこと?それはこの闇市内には存在していないってこと?」


 そうなるとまた全然話が変わってしまうのだが。


 店主はあからさまなくらいの警戒心を見せ、周囲を数回見渡した後に少し顔を寄せて潜ませた声で情報を寄越す。


「あくまで眉唾な話だ。どうやらこの闇市の中に、選ばれた者だけが招待されるという店舗があるらしい。鍵とやらがここに無いのなら、もしやそこになら……最低でも情報は持っているだろうよ」


「それに選ばれる為の条件は?」


「分からない。なにしろあるかどうかすら定かではないしな。だが、俺達だって商人の端くれだ。こんな根も葉も無い噂話が一人歩きするとは思えない。出所すら分からねえが、それが存在している可能性は十分にある」


「ここに来てまた都市伝説めいた話になるのね」


 頭が痛くなって来そうな話だ。


 だが、そう言われていてこの闇市も存在していた。


 ヒカルがいればなにか分かったかもしれないが、姿を消してしまっている以上それは出来ないし、知っていても口を割らない可能性が高いか。


「どうする?」


 カケルが不安そうに見詰めるが、その頭を軽く叩いておく。


「ってぇな。なんなんだ」


「どうもこうもないわ。あるかもしれないのなら、探してみるしかないでしょ」


 とりあえず収集する情報が増えたということになる。


 一つ、二つ増えたところでどうということもないが、残り時間のことを考えれば少しペースを上げたい。


「あ、これとこれと………もう面倒臭いから全部買うわ!」


「……………」


 とりあえずバクをなんとかした方が良いか。

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