19話 闇市。劇薬の店へ
案内人ヒカルの力を借りることで、ようやく私達は目的の場所へと辿り着くこととなった。
目の前に大きな鳥居が立っている。
現実世界で見る赤色をした綺麗なそれではなく、ゴツゴツとした岩を加工したような目の粗いものとなっている。
一体なにで出来ているのかと触れようとしたところでヒカルからのストップが掛かる。
「触れない方が良いですよ。微弱ながら結界が張ってありますので」
「……そういうのはもっと早く言ってよ。危うく触れるところだったわ」
それにしてもかなり用心深い。
合法違法の品々を扱っているくらいだから当然か。
結界の解除はヒカルがそれに触れるだけで済むようで、ようやく私達は闇市へ足を踏み入れる。
「う……」
バクが魔道具による結界を破壊した時と同様、たった一歩で漂う空気が大きく変わってしまった。
「これは煙草、かな?結構キツいね」
私とバクが臭いを嫌がって鼻を摘んだり、手を振って少しでも振り払おうとしているのに対して、カケルだけは慣れた様子で平然としている。
「カケル、まさか……」
「まぁ。あんまり強い奴ではないんだけどな」
さすがは引ったくり犯ということにしておこう。法律や、倫理的なものは私が言えることでもないし放っておこう。
闇市は一直線の道が伸び、両端に沢山の出店が並んでいる。
石灯篭から灯されている明かりは明滅していたりと、不安定なものが多く薄暗く陰気な雰囲気が漂っている。
先頭にある店を覗くと、無精髭を生やした粗暴そうな男が客である私達を睨み付ける。
今にも掴み掛かって来そうな剣呑な感じがする。
少なくとも商売人が客に向けて良いものではない。
「えっと商品見ても良いかな?」
「………好きにしな」
男が発する妙な威圧感。
それに気圧された訳ではないが、ここでの勝手が分からない以上慎重を期するに越したことはない。
「––––––––ッ」
高い。
並んでいる品々は容器に入った液体や、見たことのない葉や粉末が殆どだ。見た目には怪しげであるが、容器自体にお金が掛けられているという感じでもない。
有り体に言うのなら安っぽい。
なのに想像している値段より桁が二つ、三つ多い。
「ねぇ、これなにに使うの?」
引き気味にな私達とは真逆で、バクの方は興味津々といった模様で前屈みで質問をぶつけていく。
「どれも薬品だ。粉末は幻覚系、葉は痛覚系、液体は精神系ってところだな。効果は折り紙付きだが、その分依存性も高い」
口内に溜まった大きな唾を飲み込む。
聞くまでもなく違法な代物だ。
「そ、そんなものを使う奴がいるってのかよ」
「さぁな。わざわざ自分用で買っていく奴は少ないかもな。この劇薬はな、恨みの対象に向けて使うものさ。無味無臭だからな、食事に混ぜてしまえばバレやしねえよ」
店主が初めて見せた表情は底意地の悪い笑みだった。
悪意の塊に商売という大義名分を貼り付けただけ。
こんな劇薬を一体誰が求めるのかと疑問を抱かずにはいられないが、店頭に並ぶ品々には所々隙間が垣間見えている。
「あ、じゃあこれだけ貰おうかな。いくら?」
バクの快活な声が静かな闇市内で響き渡る。
これだけ、という割に両手一杯に抱えるようにしていて店主の表情が硬直した。
「あ?決して安いもんじゃねえぞ。アンタ、ちゃんと金は持ってるんだろうな?」
店主は片眉を下げ、懐疑的な視線を送る。
口調は喧嘩腰そのもので余程信用されていないということだ。
「あるよ。ほら」
バクが余裕の表情で答えると、なにがトリガーになったのかポケットからなにやら小さな生き物が顔を出した。
それは両手足の目一杯動かしてバクの衣服を掴んで登って抱える商品の上に立つ。
「んだそいつは?」
「財布。魔道具入魂。物に魂を入れて生物に変える代物よ。ま、大きな物を動かすことは出来ないけどね」
財布の生物に裂け目が出来るとそこから出て来たのは札束だった。それを見た店主が戸惑いながらも息を呑む。
「お前、一体何者だ?」
「同業者だよ」
「本当かよ。ここには色々な商品が存在しているが、そんな魔道具見たことねえぞ」
「そりゃそうでしょ。だって私が作ったんだし」
「作った?お前、まさか魔具師バクか?」
こんなところにまで名を馳せているとは流石だと思った。
問いに対してバクが満面の笑みを浮かべて肯定すると、ずっと仏頂面を浮かべていた店主が目を丸くする。
「先代魔王の直属の配下がなんでこんなところに……俺達のような商人であってもアンタのこと知らねえ奴なんていねえよ」
「そうなんだ。そう言われると嬉しいわ」
「先代魔王は脳筋の無能だと聞いていたが……アンタみたいな優秀な配下がいるから成立していたんだろうな。まぁ、最期には瓦解しちまったけどよ」
ぶん殴ったろか。
拳を握り締めて拳骨を落としてやろうかという時に、バクが遮るようにまた話し出す。
「ところで、この店に鍵とかって売ってる?」
「鍵、だぁ?どんなものかは知らねえが、俺のとこには取り扱いはねえな。だが、この先にはもっと優れた店があるからよ。上手くすれば見つかるかもな」
バクは支払いを済ませると、そそくさと商品をザックに詰め込んでいく。用は済んだとばかりに店を離れることになるが、一体この先に何店舗が存在しているのだろうか。
一店舗目で目当てに辿り着く可能性は決して高くないが、僅かばかりの落胆はあった。
この先虱潰しをしていくことになりそうだが、目当てが外れる度に精神が削られていくような。
そんな気がしている。




