18話 魔武器使用の反動
自身を案内人と名乗るヒカルという男が私達を先導する。
ある境界を抜けたことで漂う臭気は消え失せ、両端にある灯火が道を照らしている。
一直線に続くかと思われた道には更なる分岐が待ち受けていて、私達には道筋が皆目検討付かないが、ヒカルはそれを把握しているのか迷わず進み続ける。
「ここにも魔道具が使われているの?」
そう言うバクの背中には、いつの間にやら巨大なザックがしがみ付いている。
「さすがバクさん。その通りです。ですが、それを破壊しようとするのはお勧めしませんよ」
「そんなことしないってば。私だって無闇矢鱈と動いたりはしないし、それに壊すことで資格を失いそうだからね」
バクが得意気に話すとヒカルは満足そうに頷く。
「この先にあります闇市へは初回限定ですが、案内人の力が必須になります。形はどうあれここまで来られたことで資格は得ております。余程のことがない限り喪失はしませんが、理に反するようなことがあればどうなるか……」
これ以上は言わせるな。
言外にそう言っている。
「それよりも夢瑠さん大丈夫ですか?」
「なんとかね。大丈夫に決まってるでしょ」
と、言いつつもかなりしんどい状況に陥ってしまっている。
やはり魔武器を使ってしまったというのが響いている。
重しでも背負っているかのように身体がズシリと重くなり、全身の機能性が急激に落ち込んでいく。
風船内の空気が抜けていくように、ゆっくりと真綿で首を絞めるように力が抜けていく。
息が切れて苦しく、付いていくことが出来ない。
「夢瑠?」
私が徐々に遅れていることに気付いたカケルが足を止める。次にバクがこっちへ歩いてくる。
「あー……やっぱり駄目か。ごめん皆少し待ってて」
いつしか私の足は止まり、片膝を付いてしまっていた。
「バクさん。これ、どういう状態なんです?」
カケルが深刻そうにしているが、バクの方は事情を知っているだけに笑って手をヒラヒラさせている。
バクが取り出しのは小瓶だった。
中には澄んだ青色をした液体が入っており、攪拌する為にそれを揺らしている。そんなサラサラした謎の液体が入った小瓶を渡され、私はさしたる抵抗を示すこともなく飲み干す。
「どう?」
「思ったよりクセのない味だったわ」
「や、そうじゃなくて効果の方だって」
バクから受け取った液体がなんだったのかは分からないが、かなりの即効性があったようでみるみる内に回復していくのが分かる。
「……かなり戻ったわ」
「よし。ならもう大丈夫そうね」
そうだね、と返すだけなのだが依然としてカケルが不安そうにしている。話したところで栓無きことだが、そうしない訳にはいかないか。
「今の私の力が全盛期と比べてほんの少ししか無いという話は前にしたよね?」
ゆっくり立ち上がって話すとカケルは物言わず頷く。
「さっきオーガに使った魔武器なんだけどさ、あれはかつての私が使っていたものになるのよ。全盛期の私が使って見合うレベルの魔武器だからさ。今の私には手に余るのよ。これがまた、私の力を下手に引き出してしまうもんだから反動も酷いってことなのよ」
銀獅子以外でも、ただ拳一つで戦うだけでオーバーヒートすることもあって、極力戦闘は避けたい。
「ま、これでオーガは倒せたんだしもう心配は要らないってことで」
カケルを安心させる為、私は軽く言って肩に手を置く。
話はこれまで、とカケルにとっては尻切れトンボな状態にしながら再び歩き出すことにする。
少し待たせてしまうことになったがこれで再出発出来る。
そう思っていたところでバクが一枚の紙切れを差し出す。
「なにこれ?」
「決まっているじゃん。請求書だよ」
今「飲まされた」液体の請求額がそこには掲載されており、それを見た瞬間背筋が凍った。
鼻血が吹き出しそうな金額が、そこには記載されていたのだった。