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16話 案内人なる存在

 爆風が駆け抜け、残ったのはオーガの身体が焼ける饐えた臭いだった。


 肌を焼き、黒く炭化した身体には未だ炎は燻り続けている。それだけの一撃を見舞ってやったのだから、当然の結果ではあるが街の守護神の最期としては無惨なものだと言わざるを得ない。


「……………」


 災厄の街とまで呼ばれる香林を守り続けていたのだから、元々相当の実力を誇る人物だったのだろう。


 銀獅子と魔弾「爆炎弾」


 まさか本当に使わされるとは思わなかった。


 大体の相手は拳一つで捩じ伏せてきただけに衝撃を受けた。


 大通りの一戦と比較してパワーアップしていることに加えて、私の攻撃を受け続けたタフネス。


–––––––––セ。


–––––––––ロ、セ。


–––––––––––––––––––––殺せッ!!


「夢瑠?」


 バクが呼び掛けて肩に手を置くとハッとなった。


 昂ぶって赤く染まっていた視界がゆっくりと晴れていく。


「ん、なんでもないわ」


 なんでもない風を装いながら踵を返して先を見据える。バクはなにやら不安そうにしているが、深刻なのはカケルだった。


 浅い呼吸に不自然な程に流れる汗。


 傍目にもその異変が見て取れる。


「オーガの殺気に当てられたかもしれないな。それに元々持っていた恐怖心を刺激され続けたことで消耗してるし」


 確かにオーガの放つそれは凄まじいものがあった。もはや人としての尊厳やなにもかもを捨てて、殺人衝動に全振りしてしまったかのような異常性がある。


 私やバクは慣れていることもあって、体調に異変は生じていないがそうではないカケルからすればひとたまりもない。


「カケル、少し休もうか?」


「いや、大丈夫だ。このまま先に進もう。多分その内回復するからよ」


 カケルは提案を固辞して、ずっと膝に置いていた手を離して背筋を正す。それでも肩で息をしていて苦しそうだ。


「おや、大丈夫ですか?」


 なんの気配も感じさせず、行き先に突如現れたのは目の細い男だった。


 黒いスーツを身に纏い、笑みを浮かべて手を広げるその男が何者か分からない。もしやオーガの仲間である可能性すら考えて再度臨戦態勢を取る。


「いやいや。待って下さい、僕は敵なんかじゃないですよ」


 男は両手を差し出して、大仰に首を振って否定する。


「そう構えなくても、僕なんかにあのオーガを倒すような方を相手に出来るとは到底思っていませんよ」


 見られていた、ということか。


 確かに敵意は感じないが一体何者だ。


「だったら、なんのつもりで姿を現したの?」


「それは勿論、この先の案内をする為です。貴方達はこの先の闇市に行きたいんですよね?」


「闇市?本当にあるの?」


「あ、ご存知無い感じなんですね。ということは正規ルートではないということになりそうですが、一体どうやってここまで?」


 男の表情がやや曇り始める。


 どうやら闇市に行くまでに正規のルートなるものがあるらしい。最悪ここで弾かれてしまう可能性もあるのか。


 それが分からない以上、私達はここに来るまでの顛末を簡潔に話したのだが思ったよりも男の反応は悪くはなかった。


「なるほど。張られた魔道具の結界を破ってきたと……まさかそんなことが出来るとは」


 顎に手を当ててブツブツと呟いている。思考が外に漏れるタイプで、バクがやったことは常識外れなことであり戸惑いと疑いが残っているようだ。


「そしてあのオーガ倒した、と」


 それから数十秒後に男が小気味良く手を叩く。


「まぁ良いでしょ。とりあえず合格ということにします」


 男が先に向けて手を伸ばし、これから案内をしてくれることとなった。


「合格ということは、不合格であったかもしれないのよね?それだったらどうなっていたの?」


「勿論排除ということになります。実力行使ではなく、魔道具を用いてということになりますが」


 ヒカル、と名乗る男が先を行き案内をすることとなった。


 聞けばこの先も魔道具による結界の類が張られており、一定の基準を満たした者だけが通れるようになっているそうだった。


「初見さんはともかく、今後はコレさえ持っていれば自由に行き来出来るようになりますよ」


 首に下げられたそれは土産屋で見掛ける通行手形のようだった。


 ふと足を止めて後ろを振り返る。


 闇に覆われて、その姿は殆ど見えなくなっているがオーガが倒れているのが薄っすらと目に写っている。


 あの時感じた脳が焼けるような熱さ。


 銀獅子を握っていた手の強張りはまだ抜けていない。


 まるでなにかに耐えているかのように、未だ脳は意味不明な信号を送り続けているようだ。


 もし、あの時バクに呼び掛けられなかったらどうなっていたのか。


 止めておこう。


 これ以上深く踏み込むようなことはせず、私は遅れて先に進むことにした。

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