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12話 北で起こる魔獣戦争

「北の大陸で魔獣が大量に出現している?」


 アイスナーガ戦の後、諸々の手続きを踏んで一息吐きながら会話を交わしていたのだが、その中で出て来た内容について聞き返す。


「そ。理由については全然分かってないんだけどね。一介の商人でしかない私にとっては、理由なんて瑣末なもんだけどさ。不気味ではあるかな」


 応接室にてバクが出されたコーヒーを一口啜る。


 私もそうしようとしているのだが、熱過ぎて中々口に入れられずにいる。


「なるほどね。それで向こうから魔道具や魔武器の注文が殺到しているってことか」


「そういうこと。見積もりなんて過程をすっ飛ばしていきなり注文になるんだから価格も付け放題だし、その点は楽だからどこも商機と見てこれでもかってくらい在庫を回しまくってるわ」


 言いつつ、利益率について思い浮かべてしまったのか言葉を紡ぐ度に表情が悪人のそれへと変わっている。


 バクが一つ咳払いをする。


「とは言え、バク商会としてはそろそろ手を引き始める予定ではあるんだ」


「へ?らしくないわね。どうしたの?」


「やっぱりリスクがあるからね。相手は国や直属の軍になるんだけど、もしものことがあればお金が入って来なくて丸損になるし」


「もしかして危ないの?」


「どうだろう。それすら分からないというのが実情かな。下手な情報が流れれば、取引停止されかねないから統制しているんだろうけど。とにかくリスクがある案件には深入りしないのが得策だってこと」


 バクはそう言ってはいるが、倉庫や店舗の状況から鑑みるに既に相当注ぎ込んでいるようだ。


 バク商会は業界では一応大手の部類に入っており、各地に支店が置かれているくらいだ。


 それだけの社員を抱えている状態でもしものことがあれば大惨事だ。


「と、言うことでなんだけど見ての通り在庫状況はかなり寂しいものになっているんだよね。それで夢瑠がここに来たからには、なにかしら用件があるんだろうけど大丈夫かな」


「それなんだけど魔弾が欲しいんだよね」


「魔弾、ね。あんまり使わないようにしているって聞いてたけど無くなったってこと?」


「そうではなくて、足りないってこと。弾切れを起こすと厄介だから補充しておきたいの」


「なにやら危険な仕事をしているみたいね」


「そうね。今の私では倒し切れなかったわ」


 尤も、魔武器を使わずにということになるのだがバクは意外そうに目を見開いた。


「そりゃとんでもないわ。分かった、今ある分用意する」


 腐っても元魔王。


 弱体化しながらもアイスナーガを一蹴する程の力を持っている人物が苦戦する相手。


 詳細を説明しなくても伝わるというのは便利ではある。


 バクは多忙でありながらも、私の依頼を最優先で動いてくれることとなった。


「ま、仕方が無い。そういう契約だからね」


 私とバクは専属の契約を結んでいる。


 内容としては私が魔道具の類を求める際は、原則バク商会を通して購入することになっている。


 その代わり特値が付いて他者が購入するよりも安価となる上に、ロット制限も無くなっている。


「それともう一つ仕事をお願いしたいんだ」


「……珍しいね。どうしたの?」


「私が今関わっている仕事に同行して欲しいんだ」


「待った。それは無理だ。こんな私でも今は社長だからね。今の状況を放って現場から離れる訳にはいかない」


 内容も聞かずに断りを入れるのは珍しい。 


 それだけ今が逼迫しているということか。


「私が今いる街に都市伝説めいた闇市があるって言われているんだ」


 そう漏らすと、バクの真顔が僅かに歪む。


 流石は商人ということだ、と感心すら覚えながら畳み掛けるように詳細を話すとみるみる態度が変わっていく。


「でもなぁ……都市伝説ってことはあるかどうか定かでは無いってことだしな」


 言いつつも唾棄することは出来ていない。


 言動や腕組みを仕草や表情から、行きたいという気持ちがありつつも断り文句を探しているといったところか。


「分かった。では、こうしよう。私はそこで依頼人の鍵を探しているんだけど、それさえ手に入れば目的は達成する。なので、その他の品や紹介料、なんなら後日入手した鍵を譲っても良いわ」


 それでもバクは唸る。


 決めかねている、というよりは経営者としてのプライドを示そうとしているだけだ。


 答えはもう表情に表れている。


「分かった。だったら交渉は成立ってことにしよう」


 闇市という響きは商人にとって魅力的なものだったのか、おかげで交渉は上手く行ってくれた。


 私としては喜ばしい展開だが、巻き込まれる社員達は頭を抱えることになるかもしれない。


「で、そこで私はなにをすれば良いんだ?戦闘には参加出来ないよ?」


「そんなことは分かっているわ。バクにはその闇市に繋がる結界を破壊して欲しいんだ」


 なるほど、とバクは笑みを浮かべる。


 準備は整った。


 早ければ今夜にも仕事を終えることが出来そうだ。


 問題は本当に闇市があるかどうか、だ。


 都市伝説めいた、とは説明はしたがよもや違約金とか発生しないだろうか。


 少し心配になってきた。 

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