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100話 黒き進化へ

「やってくれたわね」


 もはやそう言う他に無い。


 私達を囲む硬い結界。その外に控えるのは大量の魔獣達だった。どれもが辺りをうろついていて、偶々集まったとかではなく間違い無く作為が込められている。


 一体どれだけの数がそこにいるというのか。


 殆ど漏れなく魔獣達は私達に照準を合わせている。


 浴びせられる殺気に響く唸り声や咆哮と、どいつもこいつも獲物の到来を心待ちにしていたようだ。


「これはやべえぞ。この結界が消えた瞬間に襲い掛かってくるな」


 スルトが言うことは間違っていないし、脆弱な壁は徐々に薄らいで行き地獄の時間はもう間も無くというところまで迫っている。


 このまま成す術無く構えているだけでは、次の瞬間に肉は裂かれ、噛み千切られてすぐさま身体は原型を失ってしまうことだろう。


 苦しむ余地が無いだけまだ救いがあると捉えるべきか。


「と、とにかくやるしかねえ。こんなところで、それもラングの野郎の思い通りにはさせたくねえ」


 私は大きく息を吐いて、そして――――


「要らないわ」


「あ?なに言って―――」


 次の瞬間、私は取り出した大槌黒龍を振り回していた。


 ただでさえ脆くなって存在が希薄になっていた結界は、まるでガラス細工のような容易く粉々になって、私達と魔獣の群れとの境界が無くなってしまう。


 ガランとラングからすれば、私が突然とち狂ったかのように感じていることだろう。


 実際、数々の狼狽が重なってなにやら叫んでいるのだが、残念ながらそれは私の耳には届かない。


「はっはっは!」


 気付けば私は笑っていた。


 囲む魔獣達は単なる有象無象では無い。どれも強力であり、繰り出す一撃がそのまま致命傷になりかねない。


 だと言うのに、私の心臓はこれまでに無いくらい高鳴っている。


 返す一振りで数体の魔獣を屠る。


 ウェアウルフが高く飛び上がり、私の喉元に鋭い爪を突き立てんと迫る。


「見えているよ」


 足元を這うデビルスネイクを巻き添えにしながら黒龍を振り上げ、迫る爪が肌に届こうというところでウェアウルフを吹っ飛ばす。


 今、確かな手応えを感じている。


 鋼鉄の鎧を纏う剣士「メタルナイト」の攻撃を受ける。装備の重量のおかげもあってか、攻撃は重く受け止めたは良いが押され掛ける。


 だが幾らでもやりようはある。


 フッと力を抜いて身を翻すと、メタルナイトが力ずくで振り下ろそうとしていた剣は空を切って地に落ちる。


「遅いわ」


 メタルナイトがそれを振り上げようとするより遥かに速く、黒龍が頭部を破壊する。


 違和感はあった。


 先日Aランクエリアに乱入した際、敵を難無く倒せたのだがそれらはどれも今までの私なら容易くない相手だった。


 いつぞやの殺人鬼クラスの力を持っているのが殆どで、乱入したは良いが返り討ちに遭う可能性は低くはなかった。


 そんな中で私は敵を圧倒した。


「…………」


 そして今、変わらず魔獣を殆ど一撃で屠っているという事実が単なる違和感を確信へと変えていく。


 呪いが弱まり、縛る枷が緩んでいる。


 地面を蹴り、窮地に陥ろうとしている二人の援護に回る。なんの強化スキルも用いていないし、魔獣にデバフを掛けるようなことはしていない。


 単純に力任せに大槌を振り下ろすだけで、魔獣は肉塊と化してしまう。


 辺りを旋回している邪魔な鳥はリボルバー銀獅子で撃ち殺す。


 ある程度魔獣を倒したつもりでいたが、まだまだ数は残されている。黒龍で丁寧に磨り潰してやるのも一興だが、少しばかり邪魔臭くもある。


「二人共下がってて。巻き込まれるわよ」


 銀獅子の弾倉に込められるは爆炎の弾丸。


 銃を構えて狙いを定める必要は無い。


 大雑把に銃口を向けて、引き金を引くだけで瞬きの間に爆炎が上がり周囲の魔獣を四散させる。


「すげぇ……夢瑠、お前どうなってんだよ」


 爆発による熱風が駆け抜けて行く中で、スルトは蒼褪めた様子で私の顔色を伺う。


「どうだろうね。私にもハッキリ分からないわ」


 だが凡その見当は付いている。


 ここで大なり小なりの戦闘を重ねてきたことで、私は多くの魔石を献上、吸収をしてきた。


 それが積もり募って、増していく力が呪いのそれを上回り始めたということだ。


「おや?」


 魔獣の様子が変わったことに気付く。


 つい先程まで理性を感じさせない動きで、欲望のままに襲い掛かって来ていた魔獣達の動きが相当に鈍くなっている。


「な、なんだコイツ等急に動きを止めて……」


 数はまだまだ残されている。


 数的有利という要素と魔獣の凶暴性を以てして動きを止める、これは即ち恐怖心を抱いてしまったことに他ならない。


 一部魔獣はみっともなく身体を震わせ、縮こまってしまっている。


 逃げ出したくても、この魔獣の数が壁となってしまい道は閉ざされている。


「心が折れちゃったかな。私としては物足りないんだけどね」


「あれだけやってまだ余力があるとかおかしいだろ」


「ともあれ、俺達はこれで命拾いしたといったところか」


 二人からすれば生きた心地はしなかったことだろう。


 私がピクリとでも動くだけで、恐怖に溺れた魔獣は後ずさりしている始末だ。この調子ではもう殺意を以て襲い掛かるようなことはないだろう。


「決着かな」


 あとはどう帰るか。


 ラングの野郎にどう落とし前を付けさせるか。


 そこに焦点が当たることとなる。


「ん?」


「どうした?」


 訝し気にしている二人を手で制して感覚に集中させる。


 魔力の鼓動を感じる。


 ここにいる魔獣はどれも物理系が多く、魔法系はいなかった筈だがどこから発せられているものなのか。


 そして聞こえる不吉な声。


「愚かな魔獣共よ。より深く、黒く進化しろ」

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