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銀白色の涙  作者: どらえもん
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原子力緊急事態宣言

 原子力緊急事態宣言


 午後4時59分、首相官邸の記者会見場で東北地方太平洋沖地震の災害対策本部会議後の記者会見を終えた菅原首相は、首相執務室に戻っていた。執務室には、細川、寺内の両首相補佐官が待っていた。菅原は秘書官を呼んで耳打ちした。

 「今から自衛隊のヘリを呼んで、福島に飛べないか?」

 「なっ、無理ですよ。このあと院内で与野党党首会談の予定ですよ」

 秘書官が目を白黒させる。菅原の無理難題には慣れているつもりだったが、ドラえもんじゃあるまいし、ポケットからヘリは出せない。「タケコプターじゃないんだから」というツッコミは、すんでのところで飲み込んだ。

 「党首会談は、官房長官と幹事長にやらせればいいだろう。福島で外部電源が喪失したというのが、気になるんだ」

 向かいに座った二人の補佐官がじと目で睨んでいたが、菅原は気にしない。

 「仮に今から飛んだとしても現地に着くころには真っ暗ですよ。向こうは停電していて、下は津波でガレキがいっぱいのところに着陸はできませんよ」

 「ぐぬぬ」

 やっと諦めてくれたかと秘書官が思ったのは、束の間だった。

 「なら明日の朝、日の出とともに出られるように、ヘリの準備をしておいてくれ。地震や津波の被災状況もこの目で確かめたい」

 菅原は、諦めてはいなかった。

 「それなら私が一緒に行きますよ。同じ東北で福島は気になりますから」

 衆院秋田1区選出の寺内学補佐官が笑いながら、同行を申し出た。

 「そうしてくれるか」

 「はい!」

 その後、国会内の常任委員長室で菅原首相が与野党党首会談に臨んだのが、午後6時12分。しかし、会談が始まって間もなく秘書官からメモが差し入れられると、菅原は急に立ち上がり、「失礼」と言い残して部屋を出て行ってしまう。ざわつく野党党首たち。この時、午後6時17分。仕方なくメモを拾って江田官房長官が読み上げる。

 「福島第一原発1号機で全電源喪失・・・」

 江田の手が少し震える。

 「原子力緊急事態宣言発出のため、総理は官邸に向かいました。われわれもこうしてはいられません。今日はここまでということで、お願いします」

 昼間の参院決算委に続いて、地震対応をめぐる与野党党首会談も途中で打ち切りになった。

 野党党首が不満を口にしながら、国会を後にしたころ、首相官邸の執務室に戻った菅原は、国家公安委員長の中村寛政と内閣危機管理監の伊東哲を呼んだ。

「福島第一原発1号機で全電源が喪失する事態になった。対応を誤れば、チェルノブイリのような事故になるかもしれない。これから非常事態宣言を出す。念のため原発の周りの住民を避難させることになるので、パニックが起きないように、地元警察とよく連絡をとって避難誘導にあたってもらいたい」

 「わかりました。避難範囲などは、あとで指示をいただけますか?」

「これから開く会議で決めるから」

そこへ秘書官が、急遽まとめられた原子力緊急事態宣言の案文を持って入ってきた。軽く流し読みして、菅原はサインした。

午後7時3分、菅原首相が福島第一原発で「原子力緊急事態宣言」をしたという記者発表資料が、首相官邸と経済産業省の記者クラブに張り出された。


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